国土交通省は平成30年3月6日に、「建築基準法の一部を改正する法律案」を閣議決定した。その中には、「用途変更に伴って建築確認が必要となる規模の見直し」も含まれている。
この背景として、国土交通省では、
空き家が増加傾向にある中で、住宅をそれ以外の用途に変更して活用することが求められており、建築行政においても、安全性の確保と既存建築ストックの有効活用を両立しつつ、建築規制を合理化していく必要があります。
と発表しており、今後は建物所有者にとっては用途変更確認申請が必要になるという心理的ハードルも低くなる事から、用途変更に関わる件については専門家等への対応も増えてくるだろう。
この、記事は上記平成30年3月6日に閣議決定された、建築基準法の改正を踏まえつつ用途変更について再度確認できるような内容となっている。
用途変更の確認申請とは?
用途変更とは
建築業での経験がまだ浅い方や、駆け出しの場合は、用途変更という言葉事態よくわからないという方もいらっしゃるかもしれないので、ここで改めて確認しておこう。
簡単に言うと「既存の建物用途を別の用途に変更することである。」建築基準法では、建物を、住宅系、商業系、事業系というように、大枠の用途で分けると共に、具体的な用途も定義し、その建物用途が持つ特殊性に合わせた法規制を行なっている。
つまり用途変更をするという事は、建物特性を変更することになるのである。
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確認申請とは?
用途変更という事がわかったところで、改めて確認申請とはなんなのかも確認しておこう。
確認申請とは、建築物を建築する際に建築基準法に合致しているのかを建築主事が判断するものである。全ての建築物に建築確認の義務があるわけではなく、ある一定上の建物になると建築確認申請を必要としている。
だが、建築確認申請を出さないからと言って、建築基準法に合致する必要が無いわけではなく、建築基準法はいかなる小さな建物であっても法律に則り建築する必要がある。建築物を設計できるのは、一般的には建築士等の有資格者であり、建築確認申請を出す必要のない建物であっても建築士が適法に設計する必要がある。
用途変更確認申請とは?
確認申請を要する建築物は、ある一定規模以上の新築・増築・改築・大規模修繕・大規模模様替え・用途変更である。
用途変更確認申請とは、ある一定以上の規模において、用途変更の工事をする場合には、確認申請を出す必要があるというものである。
例えば、住戸を飲食店に変えたいと思った場合は、確認申請が必要となるといった感じである。
法改正の概要
平成30年3月6日に「建築基準法の一部を改正する法律案」が閣議決定した通り、用途変更に伴う建築確認が必要となる規模の見直しが行われる事が決定した。
ここでは、まず用途変更の法律の概要を理解してもらった上で、法改正の具体的な内容を紹介し理解をしてもらいたい。
用途変更に関する現行法の概要
まずは、現行法が示す用途変更に関する法律について紹介する
(用途の変更に対するこの法律の準用)
第八十七条 建築物の用途を変更して第六条第一項第一号の特殊建築物のいずれかとする場合(当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものである場合を除く。)においては、同条(第三項、第五項及び第六項を除く。)、第六条の二(第三項を除く。)、第六条の四(第一項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第七条第一項並びに第十八条第一項から第三項まで及び第十四項から第十六項までの規定を準用する。この場合において、第七条第一項中「建築主事の検査を申請しなければならない」とあるのは、「建築主事に届け出なければならない」と読み替えるものとする。
この法文を要約すると、「用途を変更して別表第一(い)欄に示す100㎡を超える特殊建築物とする場合には、確認申請が必要である。ただし、類似用途相互間でしたら不要である。」という風になる。
では、具体的に見ていこう。
別表第一(い)欄とは、何を示すのかというものを以下に示したいと思う。
用途 | |
(1) | 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 |
(2) | 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎、児童福祉施設等 |
(3) | 学校、体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場又はスポーツの練習場 |
(4) | 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗(床面積10m2以内のものを除く) |
(5) | 倉庫 |
(6) | 自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ、テレビスタジオ |
上記表に示す、用途に変更する床面積が100㎡を超える場合には、確認申請の対象となるものである。
具体的な例としては、
・住宅(延床面積120㎡)における全ての部分を飲食店に改装。
・事務所(150㎡部分)を、物販店に改装。
・学校(延床面積1000㎡)を児童福祉施設等に改装。
上記のような例の場合、確認申請を必要とするものである。
つづいて、類似用途相互間について説明をしておきたい。
法令としては以下のように定められている。
第137条の17
建築物の用途を変更して特殊建築物とする場合に建築主事の確認等を要しない類似の用途
法第87条第1項の規定により政令で指定する類似の用途は、当該建築物が次の各号のいずれかに掲げる用途である場合において、それぞれ当該各号に掲げる他の用途とする。ただし、第三号若しくは第六号に掲げる用途に供する建築物が第一種低層住居専用地域若しくは第二種低層住居専用地域内にある場合又は第七号に掲げる用途に供する建築物が第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域若しくは工業専用地域内にある場合については、この限りでない。
一 劇場、映画館、演芸場
二 公会堂、集会場
三 診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、児童福祉施設等
四 ホテル、旅館
五 下宿、寄宿舎
六 博物館、美術館、図書館
七 体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場
八 百貨店、マーケット、その他の物品販売業を営む店舗
九 キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー
十 待合、料理店
十一 映画スタジオ、テレビスタジオ
法文を表にしてまとめると以下のようになる。
令137条の17 | 類似の用途 | 備考 |
1号 | 劇場、映画館、演芸場 | |
2号 | 公会堂、集会場 | |
3号 | 診療所(患者収容施設があるもの)、児童福祉施設等 | 第1種・第2種低層住居専用地域内は除く |
4号 | ホテル、旅館 | |
5号 | 下宿、寄宿舎 | |
6号 | 博物館、美術館、図書館 | 第1種・第2種低層住居専用地域内は除く |
7号 | 体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ場、バッティング練習場 | 第1種・第2種中高層住居専用地域又は工業専用地域内は除く |
8号 | 百貨店、マーケット、その他の物品販売業を営む店舗 | |
9号 | キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー | |
10号 | 待合、料理店 | |
11号 | 映画スタジオ、テレビスタジオ |
上記で同じ号の用途間であれば、確認申請は不要となる。
例えば、1号であれば劇場を映画館に変更、5号であれば下宿を寄宿舎に変更した等である。
法改正の概要
今回の用途変更確認申請の規模の変更は、法6条1項1号の法文が変更する点にある。
【現行法文】
法6条1項1号
別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が100m2を超えるもの
【改正案法文】
法6条1項1号
別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が200m2を超えるもの
つまり、現行法では100㎡を超える該当特殊建築物が用途変更確認申請の対象になっていたものが、改正法案では200㎡を超える場合に変更になる事による面積変更である。
確認申請等を普段の業務にしている設計者などは、100㎡を超えると確認申請の対象になると頭の中でイメージをされているだろうが、今回の改正において、200㎡までは用途変更確認の対象にはならないと思うようになるだろう。
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既存不適格建築物の用途変更はどうなるのか?
用途変更確認申請を出す場合には大きなハードルが立ちはだかる。それは、既存不適格建築物への用途変更の場合である。
ほとんどの場合が既存不適格建築物に該当するのであるが、いくら素晴らしい用途変更の構想があるところで、この問題によっては“用途変更不可”という結論もありうるのでよく確認が必要だ。以下3つのポイントを押さえておけば、十分に可能性はあるので確認してもらいたい。
①検査済証はあるか。
これは大変に重要なポイントになる、検査済証があるのと無いのでは全く異なるものである。下手をすると検査済証が無い状態がわかった時点で不可能という事にもなる。
検査済証は建築主等が保管をしていればそれを貸与させてもらえば良いが、無いようであれば、自治体の建築指導課等で建築物概要書や台帳記載事項証明を取得し、検査済証の有無を確認できる。万一それでも無い場合は、建築指導課に相談して指示を仰ぐのがよいだろう。
一般的には、既存不適格調書等や既存建築物を調査して提出する事で認められる場合もあるが、結果として用途変更不可という結論がでる事も考えられるので、先を見据えた上で調査業務を単独で受けるなどの方針がとりあえず良いだろう。
当然のことだが、確認済証や設計図書等が残っている事も大きなポイントになる。
②過去の増改築履歴は残っているか
竣工時の検査済み証等が残っていても、増改築等を繰り返し行っていた履歴がしっかり残っていないと今の建物の適法性を証明する事はできない。確認申請を受けた増改築であれば、その検査済み証も必要となり、確認申請を伴わないものであれば、その設計図や竣工図が残されているのかがポイントになる。
③既存遡及範囲
用途変更をする事により、既存部分に対しても現行法に適合させるなどの必要性が生じる(既存遡及)。仮に既存遡及を許容できる事などができない場合は、用途変更が不可となるので注意されたい。以下に用途変更における既存遡及範囲についてまとめる。
法令 | 項目 | 内容 | 遡及 |
法20条 | 構造関連 | 用途変更については適用しない。しかし設計荷重を超えない安全な事を確認する必要がある。 | × |
法21条 | 耐火構造要求 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法28条1項
法36条 |
居室採光 | 居室単位で適用 | 〇 |
法28条2項 | 居室換気 | 居室単位で適用 | 〇 |
法28条3項 | 居室換気
火気使用室 |
居室単位で適用 | 〇 |
法28条の2 | シックハウス | 居室単位で適用 | 〇 |
法29条 | 地下居室の防湿措置 | 居室単位で適用 | 〇 |
法30条 | 界壁の防音 | 界壁単位で適用 | 〇 |
法31条
法36条 |
便所 | 便所単位で適用 | 〇 |
法32条 | 避雷針 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法34条1項
法36条 |
昇降機 | 昇降機単位で適用(既存昇降機の遮煙ドアの遡及なし) | 〇 |
法34条2項 | 非常用昇降機 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法35条 | 避難施設 | 耐火構造の床・壁で区画せれている場合、適用なし | × |
法35条
法36条 |
消火設備 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法35条 | 排煙設備 | 耐火構造の床・壁で区画せれている場合、適用なし | × |
法35条 | 非常用照明設備 | 耐火構造の床・壁で区画せれている場合、適用なし | × |
法35条 | 非常用進入口 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法35条の2 | 内装制限 | 建物全体に遡及する | 〇 |
法36条 | 階段 | 階段単位で適用 | 〇 |
法36条 | 防火区画 | 建物全体に遡及する | 〇 |
令112条 | 防火戸ガラス | 建物全体に遡及する | 〇 |
用途変更の手続きの流れ
用途変更確認申請の対象となった場合は、建築主事や指定確認検査機関に対して確認申請を提出する必要がある。簡単に、手続きの流れを説明しておこう。
確認申請を提出する先は、特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体)や指定確認検査機関(民間会社もしくは法人等)の両者から建築主が選ぶことができる。
用途変更確認申請の設計においては、建築士法に定められる建築士が設計を行わなくても良い事にはなっているが、用途変更が違法建築を生み出している要因となっていると考えると、しっかりと建築士資格を持った人に設計をしてもらうのが賢明であろう。
用途変更確認申請の書類が一式揃うと、建築主事等に申請をし、建築確認済証が降りるという流れになっている。
用途変更手数料について解説
用途変更においても、規模によっては手数料も高額になる為、感触を掴んで置くことは大事なポイントになる。ここでは、面積等に応じた用途変更手数料の例をいくつか紹介しておく。
大きく分けて、建築確認審査をしてくれるところは自治体と指定確認検査機関にわかれる。ここでは、自治体の代表として「東京都」、指定確認検査機関として「ビューロベリタス」と「さいたま住宅検査センター」を例として、比較紹介する。
面積 | 東京都 | ビューロベリタス | さいたま住宅検査センター |
200㎡~500㎡ | 19000円 | 129000円 | 50000円 |
500㎡~1000㎡ | 35000円 | 150000円 | 75000円 |
1000㎡~2000㎡ | 49000円 | 222000円 | 120000円 |
2000㎡~10000㎡ | 146000円 | 297000~631000円 | 180000~410000円 |
申請先によって大きな開きがある事は当然の事として理解していただけるだろう。やはり、自治体の行う業務は一番安い料金設定となっている。民間業者であるビューロベリタスは一番高い設定となっている。
どちらにしろ、指定確認検査機関と自治体の確認申請では手続きのスピードなども大きな差を生むので、どちらを採用するかは建築主と相談して決めたいところだ。
まとめ
用途変更確認申請は、この度の法改正によって大きく変わろうとしている。
規模が100㎡から200㎡に変更になる事により、用途変更をする心理的ハードルは下がる事には間違いないだろう。
しかし、現行の法律の中でも、確認申請対象未満規模の建物によって適法であった建物が違反状態になってしまい、大惨事を起こしている事も忘れてはならない事実である。
確認申請の対象有無に関らず、建築主は適法に建物を維持する必要があるものであり、改変する場合においてもしかりである。
だが、建築基準法は年々複雑化を増しており、素人が解釈するには困難なものである。
是非、建築のプロであるこの記事の読者において、適切な判断やアドバイスを建築主にしていただき、安全な建物運営に貢献できる立場であっていただきたいものである。
是非、この記事がそのような一助になればと思う。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。