2019年6月25日施工の建築基準法改正に伴って、「界壁規制の合理化」がなされた。
界壁に関する法改正の背景として国土交通省は「最近の大規模火災を踏まえ、建築物の適切な維持管理による建築物の安全性の確保を円滑に進めることなどが課題」であり「近年の技術開発も踏まえた建築基準の合理化が求められている」と発表している。
この記事では、界壁に関する基本的な内容に加えて、建築基準法改正に伴う界壁の合理化についても解説していく。
界壁とは
界壁とは、各住戸の間を区切る壁のことを指す。長屋や共同住宅で見られる。普通の壁との違いとしては一般的には「小屋裏または天井裏に到達しているか否か」というポイントがある。
2019年6月25日施工の建築基準法改正に伴って、界壁が必ずしも「小屋裏または天井裏に到達している必要がある」ことはなくなった。
ここでは、界壁の基本的な定義や界床・間仕切壁・隔壁との違いについて紹介していく。
建築基準法における界壁
界壁は、建築基準法では「遮音性能」と「耐火性能」を一定の技術的・構造的基準で備えている壁とされている。
一般的な壁とは異なり、他の住戸での火災や生活音の影響を抑えるという役割を界壁は担っている。
界床との違い
界壁と似たものに界床という言葉がある。界床とは共同住宅などで上下階の間に位置する床のことである。界壁には「遮音性能」と「耐火性能」が求められるのが、界床に関しては「遮音性能」と「耐火性能」についての規定は存在しない。
建築基準法では、界壁に関する規制はあるが界床に関する規制は存在しないこともポイントである。
間仕切壁との違い
間仕切壁とは、各室を仕切る壁のことである。間仕切壁は防火上主要な場合に限り準耐火構造をもつ必要があり、小屋裏・天井裏に達する必要がある。
耐火性能という点においては界壁と似た要素を持つ。しかし、以下の条件をクリアしている場合には上記の条件を満たしている必要がない。
<間仕切壁が規制を満たす必要がない場合>
下記の部分にスプリンクラー設備などの自動式の消化設備を設置した場合はこの限りではない
・床面積200平米以下の階
・床面積200平米以内ごとに準耐火構造を持つ壁ないしは防火設備で区画した部分
界壁との主な違いとしては以下の2点があげられる。
・遮音性能は求められていない
・準耐火構造が求められるのは界壁が長屋や共同住宅であるのに対し、間仕切壁は学校・病院・診療所(患者の収容施設があるもの)・児童福祉施設等・ホテル・旅館・寄宿舎・マーケットなどにおいて準耐火構造が必要
(参考:建築基準法第114条)
隔壁との違い(参考:建築基準法第114条)
隔壁とは、建物の空間を仕切る壁のことである。隔壁は「建築面積が300平米を超える建築物の小屋組みが木造の場合」に限り桁行き間隔12m以内ごとに小屋裏に準耐火構造の隔壁を設ける必要がある。
※桁行きとは建物の長手(ながて)方向のことであり、桁行き間隔とは桁の間隔のことを指す
しかし、間仕切壁と同様に以下の条件を満たしていれば上記の規定を満たす必要はない。
<隔壁が規制を満たす必要がない場合>
・主要構造部が耐火構造または耐火性能が検証された建築物
・各室・各通路の壁、天井の仕上げが難燃素材で造られている場合、または自動式の消化設備、排煙設備を設けている場合
・周囲が農地であり、延焼防止上支障がない畜舎など
界壁との主な違いとしては以下の2点があげられる。
・遮音性能は求められない
・界壁が長屋や共同住宅において準耐火性能をもつ必要があるに対して、隔壁は「建築面積が300平米を超える建築物の小屋組が木造の場合」に準耐火構造を設ける必要がある。
ここまでは、界壁の基本的事項や界壁に似た建築用語との違いなどについて詳しく解説をした。ここからは界壁の仕様や、2019年6月25日施工の建築基準法改正に伴って、「界壁規制の合理化」について解説していく。
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界壁の仕様
ここからは界壁の仕様について詳しく解説をしていく。建築基準法で定められている界壁の仕様は「耐火性能」「遮音性能」の2つである。
今までは、こちらの2点に加えて「小屋裏又は天井裏に達するものであること」という規定があったが2019年6月25日施工の建築基準法改正に伴う「界壁規制の合理化」により必ずしも上記の条件を満たす必要がなくなった。
具体的には「防火性能を強化した天井」と「遮音性能を確保した天井」を設ける場合には界壁は小屋裏又は天井裏に達する必要がなくなったのである。
ここからは「耐火性能」「遮音性能」と、改正に伴う変化について紹介していく。
(参考:建築基準法施行令第30条)
防火性能
界壁に必要な性能として耐火性能がある。界壁は耐火性能として、準耐火構造が必要である。ここからは、準耐火構造の基本事項と、界壁が準耐火構造を持つ必要がない場合について解説していく。
準耐火構造とは
そもそも準耐火構造とは、「壁、柱、床その他の建築物のうち準耐火性能を有する構造」である。ここで言う準耐火性能とは「通常の火災による延焼を抑制するために必要な構造とされる性能」のことである。
一般的に準耐火性能は45分間の耐火性能を持てばよいとされる。しかし、耐火性能は45分耐火性能以外にも1時間耐火性能・75分間耐火性能・90分耐火性能が存在する。防火地域の建築物や、大規模木造建築物などがこれらの基準に当てはまる。
界壁には一般的な45分間の耐火性能が求められる。
(参考:建築基準法2条7の2)
界壁が準耐火構造を満たす必要がない場合
「界壁規制の合理化」においてもっとも合理化された点は、界壁の耐火性能規制における合理化である。今までは、界壁はいかなる場合であっても準耐火性能が必要であった。
しかし、以下の条件をみたすと界壁が準耐火性能を持つ必要がなく、天井裏・小屋裏に達する必要はないとされた。
・床面積200㎡以内ごとに防火区画
・住戸内にスプリンクラーを設置すること
・界壁と天井は遮音性能を確保
さらに、以下の場合には準耐火性能のみの規制である
・防火性能を強化した天井を使用している場合
・遮音性能を有している場合
以上の場合が界壁の耐火性能に関する規制が合理化された点である。
(参考:建築基準法第114条)
遮音性能
界壁の基本仕様として改正後も求められるのが遮音性能である。一般的に遮音性能は共同住宅や長屋などにおいて話し声などが隣家に伝わらないように、またはプライバシー保護の観点で必要とされるものである。
そのため、長屋や共同住宅出ない場合は界壁の遮音性能は存在しないのである。
遮音性能の適合性能は国土交通省の認定をうけたものに限られる。主に以下の2つの場合である。
・鉄筋コンクリート造、コンクリートブロック造など(厚さ10センチ以上)
・下地のある大壁造など(厚さ13センチ以上)
遮音性能として求められている最低限の水準がどのぐらいの水準かというとテレビの音や会話の内容が少し聞こえてしまうほどの遮音性能である。具体的な数値としては以下の表に示されている。
※透過損失とは音(振動)が壁を通過してしまった際に壁に吸収される値のことである(参考:建築基準法施行令22条の3)
振動数(Hz) | 透過損失(dB) |
125 | 25 |
500 | 40 |
2,000 | 50 |
建築基準法改正と界壁
建築基準法改正に伴い界壁の規制が緩和されたというのは前述の通りである。具体的に界壁についての記載がある建築基準法施行令114条と建築基準法30条を確認していく。
新設前:建築基準法30条
“第三十条長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、小屋裏又は天井裏に達するものとしなければならないものとするほか、その構造を遮音性能(隣接する住戸からの日常生 活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必 要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合す るもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通 大臣の認定を受けたものとしなければならない。”
新設後:建築基準法30条の2
“前項第二号の規定は、長屋又は共同住宅の天井の構造が、隣接する(新設) 住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために天井に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に 適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国 土交通大臣の認定を受けたものである場合においては、適用しない”
引用先:http://www.mlit.go.jp/common/001242728.pdf
建築基準法施行令114条
“長屋又は共同住宅の各戸の界壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の界壁を除く。)は、準耐火構造とし、第百十二条第三項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。”
引用先:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325CO0000000338#933
以上2つの条文について記載されている通り、改正後には規制が緩和されたことがわかる。
ここからは、様々な建築物の界壁についての規制を紹介していく。
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様々な建築での界壁
長屋・共同住宅(アパート・マンション)
建築基準法施行令114条の2に記載されている通り界壁は「耐火性能」「遮音性能」について国土交通省が認可している基準を満たす必要がある。
ホテル・寄宿舎
建築基準法施行令114条の3によると、
“防火上主要な間仕切壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の間仕切壁を除く。)を準耐火構造とし、第百十二条第三項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。”
となっているため、寄宿舎と同様の扱いになる。界壁ではなく間仕切壁への規制があるとされる。
界壁施工方法
最後に界壁の施行方法についてまとめる。主に界壁には2つの構造が存在する。構造については昭和45年12月28日建設省告示第1827号で定められている。
下地等を有しない界壁の構造方法
以下の7つの条件のいずれかに当てはまる必要がある。
“一 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄骨コンクリート造で厚さが十センチメー トル以上のもの
二 コンクリートブロック造、無筋コンクリート造、れんが造又は石造で肉厚及び仕上げ材料の 厚さの合計が十センチメートル以上のもの
三 土蔵造で厚さが十五センチメートル以上のもの
四 厚さが十センチメートル以上の気泡コンクリートの両面に厚さが一・五センチメートル以上 のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
五 肉厚が五センチメートル以上の軽量コンクリートブロックの両面に厚さが一・五センチメート ル以上のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
六 厚さが八センチメートル以上の木片セメント板(かさ比重が〇・六以上のものに限る。)の両 面に厚さが一・五センチメートル以上のモルタル、プラスター又はしつくいを塗つたもの
七 鉄筋コンクリート製パネルで厚さが四センチメートル以上のもの(一平方メートル当たりの 質量が百十キログラム以上のものに限る。)の両面に木製パネル(一平方メートル当たりの質 量が五キログラム以上のものに限る。)を堅固に取り付けたもの 八 厚さが七センチメートル以上の土塗真壁造(真壁の四周に空隙のないものに限る。)“
引用先:http://www.clion.co.jp/support/pdf/notification/S45_1827.pdf
下地等(堅固な構造としたもの)を有する界壁の構造方法
以下の6つの条件に当てはまるような界壁の構造が必要である。
“一 下地等の両面を次のイからニまでのいずれかに該当する仕上げとした厚さが十三センチメ ートル以上の大壁造であるもの
イ 鉄網モルタル塗又は木ずりしつくい塗で塗厚さが二センチメートル以上のもの
ロ 木毛セメント板張又は石膏ボード張の上に厚さ一・五センチメートル以上のモルタル又は しつくいを塗つたもの
ハ モルタル塗の上にタイルを張つたものでその厚さの合計が二・五センチメートル以上のも の
ニ セメント板張又は瓦張の上にモルタルを塗つたものでその厚さの合計が二・五センチメー トル以上のもの
二 次のイ及びロに該当するもの
イ 界壁の厚さ(仕上材料の厚さを含まないものとする。)が十センチメートル以上であり、そ の内部に厚さが二・五センチメートル以上のグラスウール(かさ比重が〇・〇二以上のもの に限る。)又はロックウール(かさ比重が〇・〇四以上のものに限る。)を張つたもの
ロ 界壁の両面を次の(1)又は(2)のいずれかに該当する仕上材料で覆つたもの (1) 厚さが一・二センチメートル以上の石膏ボード、厚さが二・五センチメートル以上の岩 綿保温板又は厚さが一・八センチメートル以上の木毛セメント板の上に厚さが〇・〇九セン チメートル以上の亜鉛めつき鋼板、厚さが〇・四センチメートル以上の石綿スレート又は厚 さが〇・八センチメートル以上の石綿パーライト板を張つたもの (2) 厚さが〇・六センチメートル以上の石綿スレート、厚さが〇・八センチメートル以上の 石綿パーライト板又は厚さが一・二センチメートル以上の石膏ボードを二枚以上張つたもの”
引用先:http://www.clion.co.jp/support/pdf/notification/S45_1827.pdf
まとめ
今回は「界壁規制の合理化」「界壁についての基礎知識」について紹介した。
近年では、大手アパート賃貸会社の界壁の小屋裏・天井裏部分について施工不備が発見された事件が注目を浴びた。
建築基準法の規制緩和が進んでいるとはいえ様々な条件が必要であることも同時に理解する必要がある。
是非、建築のプロであるこの記事の読者においては、きちんと規制緩和についての理解を示し安全な建物運営に貢献できる立場であっていただきたい。
是非、この記事がそのような一助になればと思う。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。