国土交通省は平成30年3月6日に、「建築基準法の一部を改正する法律案」を閣議決定した。その中には、「防火・避難関係規定の合理化」も含まれている。それにあたって敷地内通路の規定も変更された。
この背景として、国土交通省は以下のように発表している。
“近年の研究開発の進展や技術的知見の蓄積に伴い、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)における、火災時に火災の拡大を防ぎ、在館者を安全に避難させることを目的とした防火・避難関係規定について、安全性の確保を前提としつつ、建築物の特性等に応じた基準の設定や既存の規定の合理化が可能となった。”
つまり、現代の技術力や研究開発と、現在の建築基準法との間に合理性を持たせようという背景で建築基準法は改正されている。
この記事では上記平成30年3月6日に閣議決定された、建築基準法の改正を踏まえつつ敷地内通路について再度確認できるような内容となっている。
建築基準法から見る敷地内通路とは
敷地内通路は、建築基準法128条において以下のように定義されている。
「敷地内には、第百二十三条第二項の屋外に設ける避難階段及び第百二十五条第一項の出口から道又は公園、広場その他の空地に通ずる幅員が一・五メートル以上(階数が三以下で延べ面積が二百平方メートル未満の建築物の敷地内にあっては、九十センチメートル)の通路を設けなければならない」
つまり、一定の条件を満たす建築物には、屋外に出るために1.5メートル以上の通路を敷地内に造るべきであるとされている。ここからは、敷地内通路の役割や条件について解説していく。
敷地内通路の役割
敷地内通路は、建築基準法128条内の記述にあるように、火災時や災害時に建築物からの避難を速やかにすることや、消防活動の際にも有効になるような足場を提供することにある。
特に、大規模な木造建築の場合は延焼の可能性が非常に高いため、消火活動を効果的に行うためにも通常の敷地内通路よりも幅を広くする必要がある。
敷地内通路の条件
敷地内通路の役割について理解したところで、建築基準法の改正によって変化した点について紹介していく。
平成30年の改正内容
既存の建築基準法では、「一定の用途や規模等の建築物は敷地内の通路の幅員を 1.5m 以上としなければならなかった」ところ、「階数が3以下で延べ面積 200 ㎡未満の建築物については、0.9m 以上確保すればよいこと」とされた。
これまでの実験などにおいて、3階以下200平米以下のような小規模住宅における避難の場合、0.9mでの通路を使った避難でも通路に人の滞留がないと確認された。
民泊や、ワンルームアパートの増加に伴い在館者が少ない小規模住宅が増えるなかで、実際問題として1.5m以上の幅員は必要ないと思われる。そのため、今回の規制の緩和は非常に柔軟な対応であると言える。
幅員の改正
幅員の規制が緩和されたことに伴って、敷地内通路の幅員について各条件を解説していく。狭小地での建築物であっても、3階以上の建物の場合には1.5m以上の敷地内通路が必要になる場合が多いので、注意が必要である。
・3階以下の200平米以下の小規模建築物の場合
0.9m以上の幅員が確保された敷地内通路が必要
・延べ面積1000平米以内の建築物の場合(大規模木造建築物の場合)
敷地内通路は必要ないとされている
・延べ面積1000平米以上3000平米未満の場合(大規模木造建築物の場合)
幅員1.5m以上を確保した敷地内通路が必要
・延べ面積3000平米以上の場合(大規模木造建築物の場合)
幅員が3m以上を確保した敷地内通路が必要
主要構造部の全て、もしくはその一部が木造で1000平米以上の場合には、消火活動が難航するとすぐに延焼をおこす危険があるため、敷地内通路の設置が義務つけられている。
敷地内通路が必要な建築物
ここからは、「敷地内通路が必要になる建築物の条件」について紹介していく。敷地内通路が必要な建築物は建築基準法では、以下の4つ分類されている。
1.特殊建築物
特殊建築物とは主に以下の4つに分類される
・劇場・映画館・公会堂・集会場などの娯楽施設
・病院や診療所、寄宿舎、ホテルなどの療養施設
・学校・体育館・博物館などの教育施設
・百貨店や喫茶店・ナイトクラブなどの一般施設
基本的には大規模な建物や、小規模であっても建物内にいる在館数が多いとされる建築物には避難の効率性を上げるために、敷地内通路が必要であるとされている。
2.階数3以上の建築物
階数が3階以下の200平米以下の建物は0.9m以上の敷地内通路が必要である。一方で、3階以上の場合には、1.5m以上の幅員を持った敷地内通路が必要とされている。
3.採光上無窓居住を有する建築物
採光上無窓居住を有する建築物とは有効採光面積が床面積の1/20未満の建築物のことである。
有効採光面積とは、開口部の採光面積×採光補正係数で導かれる。開口部が他の建築物などに接近しすぎるとその開口部に自然光が入らないくなってしまうため、採光に有効な開口部の面積を求める必要があるのだ。
4.延べ面積が1000平米以上の建築物
延べ面積が1000平米の物件の場合には、大規模な建物として迅速な避難とともに消火活動が求められる。
1000平米以上の建築物は、1.5m以上の幅員をもつ敷地内通路が必要とされている。特に、デパートなどの避難や消火活動の効率性が必要な場合には、規制が厳格化されている場合がほとんどである。
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木3共建築の敷地内通路の条件緩和
ここからは、頭を悩ますことも多い木3共建築における敷地内通路の条件緩和について解説していく。条件緩和の内容や、木3共建築が条件緩和の理由まで解説しているのでぜひ読んでほしい。
木3共とは
木3共建築とは「木造3階建ての共同住宅」の略である。木3共建築は特殊建築物に分類される。特殊建築物は耐火性能を持つことが義務つけられているが、木3共建築の場合は「木3共仕様」とされている。木3共仕様とは1時間準耐火建築物を耐火建築と同等に扱うことができる。
そのため、施工費や材料費などのコストを抑えることができることが大きなメリットの1つである。
敷地内通路の条件緩和内容
既存の木3共建築の敷地内通路の規定は以下の内容であった。
幅員3mの通路を建築物の周囲に設けること
ただ、木3共建築の敷地内通路は以下の条件を満たす場合にのみ、幅員3mの敷地内通路を設計する必要がないとされている。
・各住戸に避難上有効なバルコニーが設けられていること
・各住戸から地上に通ずる廊下、階段その他の通路が直接外気に開放されたものであること
・各住戸の通路に面する開口部は防火設備が設けられていること
・外壁の開口部から、その上階の開口部との間に延焼を防ぐ庇が設けられていること
木3共が条件緩和された理由
条件が緩和された大きな理由としては、木3共建築は狭小地に作られることが多いからである。
狭小地の場合は、木3共の設計基準である「建物周囲の外壁面に3m以上の敷地内通路を設けること」は非常に困難である。そのため、条件を満たせば木3共建築であっても外壁面に3m以上の敷地内通路を設ける必要がないとされた。
避難上有効なバルコニーの設置が必要であることから、3m以上の敷地内通路が不要な場合でも避難上有効なバルコニーは設置が必要である点も注意が必要である。
避難上有効なバルコニーは一般財団法人日本建築センターが出版している「木造建築物の防・耐火設計マニュアル -大規模木造を中心として-」で規定されている。
簡単には以下のような規定がされている。
・バルコニーの床は1時間準耐火構造であること
・避難設備(避難ハッチ等)が設けられていること
・避難ハッチ等で地上に降りてから、道路に到達するまで幅員90㎝の通路が確保されていること(※幅員90㎝というのは明確には定められていない。特定行政庁により異なる可能性がある)
・避難バルコニーに出るための開口部(掃き出し窓or扉)は、有効高さ1.8m以上、幅0.75m以上、開口部下端から床までの高さは0.15m以下
敷地内通路設計の注意点
今までは、敷地内通路の概要について解説したが、ここからは敷地内通路の設計上の注意点について解説していく。
同一敷地内に2つの建築物がある場合
1. 1,000平米を超える場合
延べ面積の合計が1000平米以内ごとに建築物を区画し、その建物の周囲には3m以上の通路を設ける必要がある
2. 耐火・準耐火建築物によって、木造建築物が延べ面積1,000平米以内ごとに区画され防火上有効に遮っている場合
延べ面積合計3000平米以内ごとに、その周囲に3m以上の通路を設ける必要がある
敷地内通路上の門扉の有効幅は1.5m以上
敷地内通路を抜けて、道路や隣地に出る際に、門を抜ける必要がある場合は、その門も幅も1.5m以上の幅を保つ必要があります。
敷地内通路のみではなくその出口も、効率的な避難と消火活動の妨げにならないように整備する必要があります。
敷地内通路はどこから
敷地内通路は「屋外への出口」を起点としている。「屋外への出口」設計する場所が建物のどこにあるかが重要なポイントである。玄関、エントランス出入口だけではなく、キッチンの勝手口から避難することを想定した、勝手口の扉を「屋外への出口」とみなす場合もある。
勝手口を起点として敷地内通路を確保することで、玄関から出口までは1.5m以内の通路のみという設計も可能である。
しかし、設計者が任意で決める事ができるわけではなく、以下の2点を遵守する必要がある。
1.直通階段から「屋外への出口」まで歩行距離の基準を満たしていること
2.避難階の各居室から「屋外への出口」までの歩行距離が基準を満たしていること
屋外への歩行基準は建築基準法125条で以下のように示されている。
“1.避難階においては、階段から屋外への出口の一に至る歩行距離は第百二十条に規定する数値以下と、居室(避難上有効な開口部を有するものを除く。)の各部分から屋外への出口の一に至る歩行距離は同条に規定する数値の二倍以下としなければならない。
2 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の客用に供する屋外への出口の戸は、内開きとしてはならない。
3 物品販売業を営む店舗の避難階に設ける屋外への出口の幅の合計は、床面積が最大の階における床面積百平方メートルにつき六十センチメートルの割合で計算した数値以上としなければならない。
4 前条第三項の規定は、前項の場合に準用する。“
また、建築基準法第120条では以下のように示されている。
主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料で造られている場合
|
上欄に掲げる場合以外の場合 | |
第百十六条の二第一項第一号に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は法別表第一(い)欄(四)項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室
|
30 | 30 |
(二)
法別表第一(い)欄(二)項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室
|
50 | 30 |
(三)
(一)又は(二)に掲げる居室以外の居室 |
50 | 40 |
ピロティや駐車場と敷地内通路の関係
必ずしも門が出口にあるわけではないため、ピロティ(二階以上を部屋とし一階を吹き放ちにした、その一階部分)や駐車場を出口としてもよい。
しかし、駐車場を出口とする際でも、敷地内通路の幅1.5m以上であることが必要であるとされています。
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東京・大阪における敷地内通路上の屋根の規定
最後に敷地内通路における屋根の規定について解説する。敷地内通路には屋根はついてはいけないという原則がある。実際に、設計を始めると様々な要因で敷地内通路を入れ込むことが困難な状況がある。(例えば、狭小地に3階建ての建築物を立てる場合等があげられる)
しかし、各行政レベルで細かく敷地内通路上に屋根がかかってもいいとする規定が存在する。
ここからは、東京都と大阪府における敷地内通路上の屋根規制について紹介していく。
東京都
敷地内通路とは、屋外通路であるが、以下の条件を満たす際には屋外通路として表現してよく、敷地内通路に屋根がかかっても問題ないとされている。通路上に突出した壁と隣地境界線の距離が50cm以上とするなど様々な規定が存在している。
(参考:東京都建築安全条例第17条、第19条第2項)
1.通路と屋内の部分とは、耐火構造の壁及び床で区画すること。開口部は最小限度のものとし、法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で令第112条第14項第二号に規定する構造であるものを設けること。
2.通路の側面及び前面は十分に外気に開放しているものとする。ただし、構造上やむをえな いと認められる小規模な柱・ブレースは除く。梁は天井面より50cm以下とすること。
3.通路に上階が突出する場合は、外壁面と隣地境界線との距離を50cm以上とすること。
大阪府大阪市
続いて大阪府の大阪市の条例は以下のようなものである。避難にあたり、排煙や開口部の規定が多くなっている。
(参考:大阪市建築基準法取扱い要領)
“2-45 屋外避難階段からの敷地内に設けるべき通路を、建物内に設ける場合の取扱い
1.出入口等から、道路等に通じる幅員 1.5m以上の通路が、次の各号に該当する場合には、
建物内に設けることができる
2.通路部分は、主要構造部を耐火構造とし、かつ、これに接続する建築物は、主要構
造部を耐火構造で造ること。
3.通路部分は耐火構造で区画し、原則として開口部を設けないこと。ただし、やむを
得ず設ける場合は、常時閉鎖式又は煙感知器連動の特定防火設備とすること。(小規
模な便所・避難通路の幅を確保した自転車置場は除く。)
4.壁(床面から 1.2mまでの部分を含む。)・天井の仕上げは、仕上げ下地共不燃材料
とする。
5.階段から屋外出口までの(道路等、避難上有効な空地に面すること。)歩行距離は、
令第 120 条に規定する数値以下とする。
6.通路部分には段差を設けないものとする。
7.排煙について、平成 12 年告示第 1436 号四の規定は適用できない。“
まとめ
今回は、敷地内通路について基本的な解説から、改正や規制緩和の応用的な部分まで解説した。敷地内通路は、避難や消防の観点から重要視されているため多くの規制がある。
しかし、様々な条件を満たすことで緩和する規制も存在する。特に、木3共の規制緩和条件については、これから十分に把握しておく必要がある。
しかし、現行の法律の中でも、確認申請対象未満規模の建物によって適法であった建物が違反状態になってしまい、大惨事を起こしている事も忘れてはならない事実である。
確認申請の対象有無に関らず、建築主は適法に建物を維持する必要があるものであり、改変する場合においてもしかりである。
だが、建築基準法は年々複雑化を増しており、素人が解釈するには困難なものである。
是非、建築のプロであるこの記事の読者において、適切な判断やアドバイスを建築主にしていただき、安全な建物運営に貢献できる立場であっていただきたいものである。
是非、この記事がそのような一助になればと思う。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。