排煙設備を理解しているとあなたは言い切れるだろうか。
排煙設備は、採光と換気に並び居室を安全に守るための設備の一つである。採光と換気の基準に比べると、法的な考え方も複雑になっており、よく整理できていない方も多いのではないだろうか?
ここでは、建築設計をしているものにとっては必ず通り道となる排煙設備について理解を深めるための知見を紹介していきたい。
まだまだ建築設計初心者だという方、もしくは改めて確認しておきたいなどできる限り解りやすく解説することをこころがけたい。
これから紹介するポイントを理解していただき、設計を進める中での武器にしていただけたらと思う。
排煙設備とは?
排煙設備とは読んで字のごとくであるが、「煙を排出する設備」の事を指している。建築物が火事を起こすと火と共に大量の煙が発生する。その大量の煙は避難を妨げると共に、人が大量に吸い込むと最悪の事態になりかねない恐れもある。
建築基準法は人命を守る事を最優先にした法律であるので、火災時に建物内から人が避難をする際に、煙が妨げにならないように排煙設備を設ける事で避難をスムーズにし人命を守る事を定めている。
具体的な排煙設備には、「自然排煙設備」と「機械排煙設備」という2種類が存在する。
「自然排煙設備」とは、一般的には建物内部天井付近に設けられた「窓」等の事を指している。煙は上方にあがる性質を持っているので、天井付近に窓があり開放されれば、煙は外に逃げていくという仕組みを利用したものである。
一方「機械排煙設備」とは、大きな換気扇と考えるとわかりやすいだろう。これも同じく天井面等に吸い込み口がついており、機械的な吸い込み力を使い外部に放出する仕組みである。
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排煙設備の法律について確認しよう
建築物は、建築基準法を主体的な法律としながら、様々な関係規定を遵守しながら構成されている。その関係規定の中に消防法が含まれる訳であるが、排煙設備については「建築基準法」と「消防法」両方に規定されている。当然法律も異なるので要求される内容も異なっている。
以下にそれぞれがどのように記載されているかを紹介する。
<建築基準法の排煙設備規定について>
建築基準法の排煙設備(以後、建築排煙という。)は、建築基準法上「避難施設等」(施行令第5章)として位置づけられている。
〇設置基準
①施行令第 126 条の2
・別表第1(い)欄(1)項から(4)項の特殊建築物で、延べ面積 500 ㎡以上。
・ 階数が3以上で、延べ面積 500 ㎡ 以上。
・ 令 116 条の2第1項第二号(天井又は天井から下方 80cm 以内の開口部が、床面積の 1/50 未満のもの)に該当する窓その他開口部を有しない居室。
・延べ面積 1,000 ㎡を超える建築物の居室で、床面積が 200 ㎡以上。
②施行令第 128 条の3第1項第6号
・地下街の地下道への設置
③施行令第 123 条
・特別避難階段付室への設置
④ 施行令第 129 条の 13 の3第3項第2号
・ 非常用 EV 乗降ロビーへの設置
⑤H12 建告示第 1436 号
・排煙設備の設置を免除する規定
〇 構造基準
・一般居室部分に係わる構造基準(施行令第 126 条の3)。
・特殊な構造の排煙設備の構造基準(告示第 1437 号)。
・ 特別避難階段付室に設ける構造基準(告示第 1728 号)。
・地下街の地下道に設ける構造基準(告示第 1730 号)。
・非常用 EV 乗降ロビーに設ける構造基準(告示第 1833 号)。
<消防法による排煙設備規定について>
消防法による排煙設備(以後、消防排煙という。)は、消防法令上「消火活動上必要な施設」(施行令第7条)として位置づけられている。
〇設置基準
①令 28 条第1項
・別表第1(16 の2)項の地下街で、延べ面積 1,000 ㎡ 以上。
・ 別表第1(1)項の劇場、映画館などで、舞台部の床面積 500 ㎡ 以上
・別表第1(2)項、(4)項の物販店舗などや(10)項及び(13)項の駐車場などの地階又は無窓階で、床面積 1,000m2 以上
〇 構造基準
①則 30 条
・消火活動拠点→建基法告示第 1728 号(特別避難階段付室構造基準)及び建基法告示第 1833 号(非常用 EV 乗降ロビー構造基準)と異なる内容。また、告示第 1437 号の押出し排煙は含まれていない。
・ 拠点以外 →建基法施行令 126 条の3(一般排煙構造基準)と同様の内容。
消火活動拠点については、「特別避難階段の附室、非常用 EV 乗降ロビーその他これらに類する場所で消防隊の消火活動の拠点となる防煙区画」(則 30 条第2号イ)という定義がある。
建築基準法と消防法の排煙設備の違いについて
まず押さえておいていかなければならないのは、建築基準法と消防法の両方に排煙設備の規定があるという事である。
細かい内容までを踏まえると、建築基準法と消防法の性質は異なっている事も理解をしておいていただきたい。その詳細内容については割愛をさせてもらうが、異なる点で大きい事は以下のとおりである。
①設置要求をしている建物が異なる
建築基準法と消防法によって大きく異なるのは、「消防法は用途のみで定まるのに対し、建築基準法は用途を含め、用途に関わらない規模等によっても定まる」ということである。
②設置対象空間が異なる
消防法における設置対象空間は主に階全体を指しているのに対し、建築基準法の設置対象空間は主に居室を指している点で事なる。
③煙制御方式が異なる
排煙制御方式としては、「自然排煙方式」「機械排煙方式」「押し出し排煙方式」がある訳であるが、消防法においては「押し出し排煙方式」が無い点で異なっている。
ここでは、排煙設備が何であるのかという事に主眼を置いているので、細かい内容の説明は割愛をするが、どうして違いがあるのかという点まで考えていくと、制定の背景等にあたりより理解が深められるだろう。興味のある方は、突っ込んだ調査等をしてみるのもよいだろう。
大事なのは、
・排煙設備は「建築基準法」と「消防法」両方に存在する事を認識する
・それぞれの法律によって、違う基準を持っている事を認識する
・排煙設備対象の観点として、両法律がある事を認識する
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設置基準
建築基準法及び消防法において、設置を必要とする居室及び階においては、基準に沿った排煙設備の設置をする必要がある事は上記で述べた通りである。
排煙設備の種類には「自然排煙方式」「機械排煙方式」がある事を述べたが、それぞれの設置基準に沿った設置が必要となるので、ここでまとめておきたい。
①排煙口を設置する範囲
床面積を500㎡以内ごとに防煙壁で区画をし、その区画ごとに天井または天井から80cm以内に排煙口を設置する。
排煙口は防煙区画の各部分から水平距離30m以内とする。
②排煙口とは
自然排煙方式においては、外気に接する開口部である窓の事を指し、機械排煙方式においては排煙機において煙を排出する性能を有する、風道の入り口を指している。
排煙口は通常は閉鎖されており、手、かつ、防煙区画部分床面積1m2につき≧1m3以上(手動開放装置のほか、煙感知器と連動したり、リモートコントロール等により開放できる装置でもよい)
開放装置の高さは、床面から0.8m~1.5m、天井から吊り下げる場合は床面から1.8mの高さとする。
③排煙口開口部の大きさ(自然排煙方式)
排煙口開口部の大きさは、設置対象床面積の1/50以上を有するものとし、直接外気に面する必要がある。
④排煙機能力(機械排煙方式)
排煙容量≧120m3/分、かつ、防煙区画部分床面積1m2につき≧1m3以上
緩和基準について理解しよう
建築基準法と消防法においては、排煙設備の設置緩和要件が定められているので紹介をする。
混同しないでいただきたいのは、建築基準法における設置緩和は建築基準法で必要とされる排煙設備を緩和する事、消防法における設置緩和は消防法で必要とされる排煙設備を緩和することである。
<建築基準法>
〇対象外建築物
・学校(幼保連携型認定こども園を除く)、体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツ練習場
・機械製作工場、不燃性の物品保管倉庫などで、主要構造部が不燃材料のもの
・危険物貯蔵場、処理場、自動車車庫、繊維工場等で法令の規定により不燃ガス又は粉末消火設備を設けたもの
・階数が2以下で、延べ面積が200㎡以下の住宅又は床面積の合計が200㎡以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の1/20以上の有効換気窓等があるもの
〇設置免除される部分
・建築基準法別表1(い)(二)の用途のうち、準耐火構造又は防火設備で区画された部分で、床面積100㎡以内のもの(共同住宅の住戸は200㎡以内のもの)
・階段部分、昇降機の昇降路部分などのほか、防火区画されたダクト、パイプスペース等
・高さ31m以下の建築物の部分にある室(居室を除く)で、内装仕上げを準不燃とし、かつ、居室等に面した開口部を防火区画し、その他の開口部には戸等を設けたもの又は床面積100㎡以下の室で防煙区画したもの(建築基準法別表1(い)の建築物の主たる用途の供する部分で地階にあるものを除く)
・高さ31m以下の建築物の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに防火区画され、かつ、内装仕上げを準不燃したもの又は床面積100㎡以内とし、かつ、内装下地仕上共不燃としたもの
・高さ31m以下にある居室で「防煙壁」などで床面積100㎡以内ごとに防煙区画されたもの
・高さ31mを超える建築物の床面積100㎡以下の室で防火区画され、かつ、内装仕上げを準不燃としたもの
・避難階又は避難階の直上階で、一定の特殊建築物を含めた用途であり、主たる用途の各居室に屋外への出口等が設けられた適合部分(適合部分以外の建築物のすべてが告示等に規定する一定の設置免除に該当する場合又は基準の適合部分と適合部分以外の部分とが防火区画されたものに限る)
・上記対象外建築物中(3)に該当する部分
上記の他に、建築基準法の緩和規定には避難安全検証法により、避難に対する安全が認められた場合に、排煙設備を緩和する事ができる。
平成12年6月の建築基準法の改正に伴い、建築物の避難安全に関して従来の仕様規定に、新たに性能規定が追加された。新たに導入された従来の性能規定を選択して行う方法が「避難安全検証法」である。避難安全性能を有していることが確認できれば、建築基準法の避難関係規定の一部を適用除外することができ、自由度を確保した設計を行うことが可能になる。
この避難関係規定の一部に排煙設備が含まれている。
避難安全検証法には、「階避難安全検証法」及び「全館避難安全検証法」が存在し、どちらにおいても、排煙設備の緩和は可能であるが、「階避難安全検証法」の場合は、その階にある排煙設備だけになるので、注意が必要である。
・階避難安全検証法
適用する対象は「建築物の一つの階」であり、階避難安全性能が満たされれば、その当該階のみ一部の規定を除外ずることが出来、建築基準法施行令第129条及び平成12年建設省告示1441号に定められた方法に基いて行われる。
詳細な計算方法は、「2001年版避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」の内容に基いて行われる。ただし、大臣認定を取ることで、それらの内容と異なる手法を用いることも出来る。
・全館避難安全検証法
適用する対象は「建築物全体」であり、全館避難安全性能が満たされれば、建築物全体において一部の規定を除外することができ、検証においては、建築基準法令施行令第129条の2及び平成12年建設省告示1442号で定められた法令に基いて行われる。
全館避難安全検証を行う場合は、必然的に全ての階が全館避難安全検証の対象となる。
<消防法>
〇設置免除される部分
・次により直接外気に開放されている部分
①以下の技術基準に基づく、直接外気に接する開口部が設けられていること
1:間仕切り壁、天井面から50cm(令28-1-1に掲げる防火対象物にあっては、80cm)以上下方に突出しした垂れ壁その他これらと同等以上の煙の流動を効力のあるもので、不燃材料で造り、又は覆われたもの(防煙壁)によって、床面積500㎡(令28-1-1に掲げる防火対象物にあっては300㎡)以下に区画された部分(防煙区画)ことに、一以上を設けること。ただし、給気口(給気用の風道に接続されているものに限る。)が設けられている防煙区画であって、当該給気口からの給気により煙を有効に排除することができる場合にはこの限りではない。
2:防煙区画の各部分から一の排煙口までの水平距離が30m以下となるように設けること。
3:天井又は壁(防煙壁の下端より上部であって、床面からの高さが天井の高さの1/2以上の部分に限る。)に設けること。
②直接外気に接する開口部の面積の合計が以下の技術基準によること
直接外気に接する防煙口から排煙する防煙区画にあっては、当該排煙口の面積の合計は、次に掲げる面積以上であること
消火活動拠点:2㎡(特別避難階段の附室と非常用エレベータの乗降ロビーを兼用するものにあっては、3㎡)
消火活動拠点以外の部分:当該防煙区画の床面積の1/50以上となる面積
・防火対象物のうち、主としてその対象物の関係者の使用に供する部分で令13-1の消火設備が同項の規定により設置されているもの(移動式のものを除く)
・上記の2項目の他、対象物の位置、構造及び設備の状況ならびに使用状況から判断して、煙の熱及び成分により消防隊の消火活動上支障を生ずる恐れがないものとして消防庁長官が定める部分
計画の勘所
計画を進めていく中で、排煙設備が必要であることをわかった場合は、以下のような順序で検討を進めていくのがベターであろう。
①必要部位の面積の1/50以上自然排煙開口部が取れるかを検討する
排煙設備を設置する際の検討方法はまず、防煙区画内の床面積の1/50を自然排煙口となる窓等でとることができるのかがポイントになる。窓を天井高さ付近に設置しておけば、排煙の専用窓でなくても、普通の引き違い窓等でも対応が可能である。極力、排煙専用窓にはとらわれずに計画をする事ができれば合理的であろう。
注意しなくてはならないのは、引き違いの窓を排煙窓として扱う場合である。
開放装置は前渇した通り床面から0.8m~1.5mへの設置が必要であり、普通の引き違いまどであればクレセント等が解放装置にあたる。掃き出し窓や腰窓等であれば問題はないが、天井から背の高い窓等を設定して排煙窓を兼用する場合は、クレセントの高さにも注意が必要である。
又、窓に面しない居室などもあることであろう。
窓に面しない居室の場合は、下記に示す告示等によって行く場合がほとんどであるが、2室排煙などを考慮できるので頭に入れておいていただきたい。
二室以上の室を同一防煙区画とみなす場合
「個々に間仕切りされた室を同一防煙区画とみなす場合の取扱い」については建築物の防火避難規定の解説に以下のような記載がある。
間仕切壁の上部が排煙上有効に開放されている2室については、原則として同一防煙区画とみなすものとする。
ただし、「排煙上有効に開放されている」とは次の条件に該当する場合とする。
・間仕切壁の上部で天井面から50cm下方までの部分が開放されていること。
・当該開放部分の面積がそれぞれ排煙を負担する床面積の50分の1以上であること。
例えば、部屋としては奥まった所に作りたいが、外部面した部屋と上部部分が空間的につながっていても良い場合などは採用ができるであろう。
②告示等を利用した内装制限等によって緩和できないかを検討する
①による排煙窓で形成できない場合は、告示による防火区画等の形成で、緩和できないかを考えて行く。
告示の運用にあたっての原則的な運用には、以下のような方法が存在する。
・面積を100平米以に区画する
・高さ31mを超える部分については運用が異なる
・不燃材で区画すると開口部への防火設備不要
・準不燃材で区画すると開口部への防火設備が必要
この項目を意識した上で、緩和を意識すれば良いが、大空間を必要とする部屋などには、なかなかこの条項が適用できないのが現実であろう。
また、この緩和条項は外部に面する事ができない部屋などに有効であるが、使い勝手などの面から、開口部を防火設備とする事はこのまない状況も考えられるかと思う。
不燃材での区画形成を優先的に考えた方がよろしいかと思う。
③機械排煙を検討する
上記①,②を検討した上で、最終的には機械排煙を検討する必要がある。
機械排煙は、自然排煙設備とは違い、電気等を用いる設備機器である。
動作をしなくては、要件を満たす事ができないので、設置後も定期的なメンテナンスが必要となってくる。法律的には、機械排煙設備を設けることで、排煙設備の設置要件を満足する事はできるが、費用バランス及びメンテナンス頻度も考えていくと、上記①、②によってどうしても満足できない場合の最終段階と考えるのがベターであろう。
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まとめ
いかがであっただろうか、排煙設備においても、様々な規定が存在し制約もあることが理解いただけたかと思う。
排煙設備は、非常時において使うものであるのでしっかりと機能することが必要である。竣工後の日常的なメンテナンスが必要となるのは当然であるが、設計時点においては、メンテナンスを極力せずに維持できる方針つくりは重要である。
また、法規上は手動解放装置部分の平面的位置は定められていないが、避難時を想定した容易にボタン等を押しやすいような位置に配置することが望ましい。当然施設利用者は、家具などを置きたくなるので、その配置も含めた計画が設計時点から行うことが重要になってくる。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。