ベランダを増築したいと相談された時、必要とされる事が的確に答えられるだろうか?
昔はベランダの景観や機能面は二の次になってしまうこともあったが、近年では、住宅へのオリジナル性を意識すると共に、デザイン性や開放感のあるベランダが注目されている。
それにより、ベランダの増築を検討する動きも多く見られている。
施主が求めるベランダの「形」が多様している現在、より一層「説明」が求められる機会は増えていくだろう。
本稿では、ベランダの増築についての知識をわかりやすくお伝えしている。
それでは、べランダを増築したいと言われた時にすぐに答えられるような知見を身につけていこう
べランダについて説明できますか?
これを読んでいるあなたは、ベランダとは何なのかを的確に説明することができるだろうか?
バルコニーとの違いは何だろうか?
建築に精通する仕事をしているものであっても、なかなか上手に説明できないのではないだろうか。
用語をしっかり説明できる事は、知識を披露する際には外すことができない事柄である。
ここでは、用語の定義を確認しながらしっかりと知識を整理していこう。
ベランダとよく似た言葉にバルコニーというものがあるが、この2つは混同して使われることもあるので、定義をよく確認しておきたい。
一般的には以下のように使われているようであるが、法的に定義されている訳でもないので、曖昧に使われていることが多いようである。
混み行った議論になる場合などは、定義をしっかり決めた中で話しを進められれば良いが、あまり定義にガチガチにならない程度に担当者との意思疎通が大事である。
①ベランダ:建物から張り出した縁で、庇のあるもの。
②バルコニー:建物の外面に張り出した屋根の無い平らなスペースで、2階以上にあるもの。
③テラス:建物から床と同じ高さの庭や街路に向けて張り出した部分で、リビングやダイニングと連携するように設けられた、主に屋根のないもの。
④ルーフバルコニー:バルコニーは2階以上にある建物の外面に張り出した屋根の無い平らなスペースのことですが、ルーフバルコニーはこれが下の階部屋の屋上部分に設置されたもの。
ここでは、ベランダとバルコニーというものが、屋根の有る無しによって定義が左右されているようであるが、今後の解説については、
「ベランダとは、建物から突き出した床を構成する部分で、屋根や壁の有る無しは、関係ないもの」とする
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知っておきたい、増築の言葉の定義について!
今回の主題はベランダと増築の関係性についてである。
果たして増築とは何なのか。増築をする時に確認申請が必要になること、ご存知だろうか?
増築とは何なのかをしっかり説明する事ができなければ、施主との会話は成り立たなくなる。しっかり説明できる知見を身につけよう。
増築という言葉をしっかり定義してみよう。
「増築」
すでに建っている建築物の床面積を増やすことである。これは横に増やす「よこ増築」と、階数を増やす「たて増築」がある。
「増築」は、建築物の床面積を増やすとあるが、これは二通りの捉え方がある。
一つ目は、今建っている建物に接続した形で床面積を増やすことである。これは一般的なイメージに合致するのではないだろうか。
二つ目は、離れに建物を建てることで面積を増やすことである。これは、建築基準法上の同一敷地内に建てることであり、別棟ではあるが、確認申請上の床面積は合算される。
「増築」という言葉だけでも、離れに建てる事が増築に定義されるのは一般のイメージと違う所だろう。
増築確認申請について理解を深めよう!
増築の法文を確認しよう。
続いて、増築確認申請に関する法文の確認をしていく。増築等の確認申請は法文上以下のように定められている。
<建築基準法6条>
1建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。
一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの
二 木造の建築物で三以上の階数を有し、又は延べ面積が五百平方メートル、高さが十三メートル若しくは軒の高さが九メートルを超えるもの
三 木造以外の建築物で二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超えるもの
四 前三号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しくは景観法 (平成十六年法律第百十号)第七十四条第一項 の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物
ここでは、新築等をする場合において、1号から3号に掲げる規模になる場合、そして増築については、増築後の規模が1号から3号に渡る場合においては、確認申請等が必要であると定義されている。
増築において確認申請不要となる場合の法文について確認しよう。
<建築基準法6条2項>
「前項の規定は、防火地域及び準防火地域外において建築物を増築し、改築し、又は移転しようとする場合で、その増築、改築又は移転に係る部分の床面積の合計が十平方メートル以内であるときについては、適用しない。」
これについては、防火地域等以外においての増築部分の床面積が10平方メートル以下なら、確認申請不要であるとのことである。
これは防火地域等の区域では使用できないので注意が必要だが、小さい増築であれば、適用可能である。
床面積の法文について確認しよう。
今回はベランダの増築についてであるので、今建っている建物に接続した方で床面積を増やすことである。
では、ベランダを作ればなんでも増築なのか?ここでもしっかり定義を確認していきたい。
ポイントは床面積とは何であるのかを理解する事である。
<施行令2条1項>
三 床面積 建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による。
<建設省住指発第115号 (昭和61年4月30日)>
床面積の算定方法について
バルコニー、ベランダについて、外気に有効に解放されている部分の高さが1.1m以上ありかつ天井高さの1/2以上である場合においては、幅2mまでを床面積に算入しないとなっている。
このように考えると、概ねベランダについては、床面積に算入されないということがわかるかと思うが、ベランダについても、従来の洗濯ものを干すだけの用途から、憩いの場へと変化していることもある為、確認申請が必要な対象になることも視野に入れた知見が必要となるだろう。
まとめ
増築の確認申請の条文を確認してきたが、まとめると以下のようになる。
①外気に有効に解放されている部分の高さが1.1m以上ありかつ天井高さの1/2以上である条件を満たしている場合、奥行2m未満であれば確認申請は不要である。
②防火地域、準防火地域以外において、床面積10平米以内の増築では、確認申請は不要である。
③増築後、法6条1号から3号になる場合には、確認申請が必要。
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ベランダと増築の具体例を法的に整理してみる
さて、上記のように増築の確認申請についてまとめてきたが、具体例を示して考えていきたいと思う。
①防火地域等外で、4号建物住宅、9平方メートルのベランダを増築
→これは、防火地域等以外で10平方メートル以下は申請不要と示されているので不要である。
②防火地域で、4号建物住宅、9平方メートルのベランダを増築。増築後も4号要件を満たす。
→ここでの法文解釈は、防火地域なので、「防火地域外、10平方メートル以下」は忘れてほしい。ポイントは、4号建物の増築は必要か否かである。そのように考えると否である。
③防火地域等外で、4号建物住宅、11平方メートルのベランダを増築
→これは、「防火地域等以外で10平方メートル以下は申請不要」に合致していないので申請必要である。
④防火地域で、4号建物住宅、11平方メートルのベランダを増築
→②と同じく不要である。
⑤防火地域で、木造3階(4号外建物)で、9平方メートルのベランダを増築し
→②と同じく解釈を進める。増築後も4号外建物であることに変わりないので、増築後において1から3号に該当する場合は、確認申請必要との解釈になり、結論は必要となる。
⑥防火地域等以外で、木造3階(4号外建物)で、9平方メートルのベランダを増築
→これは、「防火地域等以外で、10平方メートル以下は申請不要」に合致しているので申請不要。
⑦防火地域で、鉄骨造平家述べ床面積、185平方メートル(4号建物)ベランダ10平方メートルの増築。
→これは、増築後においても、4号建物である。4号建物における増築は、確認申請不要である。
⑧防火地域で、鉄骨造平家述べ床面積、195平方メートル(4号建物)にベランダ10平方メートルの増築。
→これは、増築後においては、4号外建物である。増築後において、4号外建物は確認申請必要である。
以上のように事例を示したが、解釈は難しいところもあるので、建築主事の確認は、行っていた方が間違いないことには変わりないので、よくよく注意されたい
ただ、ここからもう少し先に進んだ解釈が各建築主事等によってされている場合があるので注意が必要である。
確認申請は確かに申請行為という意味で重要な要素であるが、もう一度確認申請の意味をしっかり理解しておく必要がある。
建築基準法や建築士法では、建築士でなければ設計、監理をすることができない建物を定めている訳であるが、これに該当しなければ、誰が設計しても、どんなものでも良いのかと言えばそうではない。
建築基準法には建物が安全であることが最低限の条件として定められており、確認申請の有無は問われない。
設計者の立場からしてみれば、例え確認申請行為を伴わない行為であったとしても、その増築行為が適法であることの確認を有無怠ってはならない。
建築士資格の有無に関わらず建築物に手を加える場合はそのような背景があることを忘れないでいただ着たい。
ベランダに屋根がかかる場合はどうなるのか
ベランダに屋根をかけたいというのは、当然の流れとしてありうる問題であろう。屋根をかける時に問題となるのは、一つはやはり斜線制限の問題である。ベランダ手すり自体はよけてクリアが出来たとしても、その庇や屋根が斜線制限にあたってしまうことがあるので注意が必要である。
後は床面積の問題であるが、原則屋根が掛かっていることによる、2m屋根不算入の原則は変わらない。屋根が2mを超えて掛かっている場合などは、屋根の先端から2mまでを床面積に算入しないというのが原則的な考え方になる。
ベランダ周囲が袖壁に囲まれていたら
床面積を2m不算入とする原則は、開放性があることが原則となる。例えば、両袖が壁ある状態で、正面は開放されているという状態であるならば、両袖部分は床面積に算入されて、正面部分は2mまでは不算入というのが原則的な考え方になるかと思う。
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これだけはつかんでほしい、計画の勘所
容積率、建蔽率はオーバーしていないか
ベランダを増築しようとした時に、確認申請の有無に関わらず、建築基準法に合致しているかどうかは、法適合として必要である。建蔽率と容積率は、都市計画によって定められる訳であるが、ベランダを増築しようとした時に、建蔽率と容積率がオーバーしているようであれば建築基準法違反となるので、注意されたい。
詳しい事は建築士等に意見を求めるべきであると考えるが、法的に確認申請を伴う行為等でないと、建築士の関与義務等は生じないのが現実であり、それに関与しない状態で基準法に適合しない状態を問われる場合は建築主に責任義務が生じるので、よくよく注意されたい。
斜線制限にも注意である
ここまでは、床面積を主たる話題として話しをしてきたが、もう一つ大きな観点として考えられるのは斜線制限についてである。
ベランダを増築することは、一般的には建物を出っ張る方向でつくるであろう、すると、床面積に算入されないし、確認申請が必要ないからと安心しきっていると、斜線制限があたってしまい、違反となってしまったりする。
確認申請を出さないからというような考えは決して持たないでいただきたい。違反建築は、行政査察でもされない限り気づかれないかもしれないが、まともに部屋を一個増やそうなどという時に違反が発覚し、壊すはめになるかもしれない。だから、どんな状況であれ適法に建てるということを忘れてはならない。
さて斜線制限の話題に戻るが、建築主事により見解が異なる場合があるが、よく相談の上進めていくべきである。一般的にベランダについては建物の一部としての取り扱いと考えられるので原則、高さ制限の対象になるものである。
建物を斜線制限なりに建てている場合などはうっかりベランダが斜線制限にあたってしまうことなどもありうるので注意されたい。
また、道路側にベランダを増築するということもよくある話であろう。
問題となるのはセットバックの後退距離算定において、採用できる数値は、建築物までの最小距離であるので、ベランダが建物で一番出っ張る部分になってしまう場合などは、道路斜線算定が厳しい状況におかれるので、よくよく法適合しているかを確かめる必要がある。
まとめ
いかがであったであろうか。ベランダを単に増築するというだけでも、様々な課題があることが浮きぼりになってきたのではないかと思う。ベランダを増築するという施主からの要望があがった時に頭の中に、今まで述べてきた情報が浮かび上がり、解決すべき課題が明確になれば申し分ないであろう。知っているのと知らないのでは、施主からの信頼も大違いである。
確認申請の有無というところでの議論が中心となっているが、確認申請の有無は、さほど問題ではなく、いかなる行為であろうとも、基準法に基づき適法にすることが求められる。
建築を業として行っている方は当然にご存知かとは思うが、建築基準法は確認申請が有る無しに関係なく遵守すべき法であることに変わりはない。設計に対する責任は、設計をした建築士によるものとなる訳であるので、よくよく仕組みを理解した上で施主等に対してアドバイスをしていけたらと思う。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。