例えば、あなたが設計者だとして、施主から「離れ」に建物を建てたいのだが、どのようにしたらよいだろかという質問を受けた時に的確な回答ができるだろうか?
新築を建てた時は完璧だと思っていても、様々な状況の変化により増築をしたいと思う時がやってくるものである。
増築をしたいというシチュエーションは様々だろうが、いわゆる敷地の空きスペースに現在の建物とは離れた形で建てたい、つまりは「離れ」に建てたいという場合も非常に多いだろう。
建築事業は専門性の高いものであり、施主のような素人の方には何が問題になるのかもわからない状況である。
専門家である設計者は、どのような状況におかれるかも察知し、的確な回答を施主に助言しておくべきであろう。
ここではそのような状況におかれることを想定し、建築の専門家として知っておかなければならない、「離れ」の増築についてまとめて行きたいと思う。
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そもそも「離れ」とは?
一言「離れ」といっても、人によっては捉え方がまちまちな状況であろう。
明確な定義はいろいろあるかもしれないが、ここでは以下のようにとらえるようにしたい。
「同じ所有者が持つ土地に、本棟とはつながらない位置(近接していると離れとは定義し難いのである程度の距離を有するものとする)に、居住もしくは業をする目的で建てる建物。」
最重要条件!確認しておくべき「敷地」のこと
この記事を読んでいらっしゃる方はある程度の建築知識をお持ちの方だろう。建築をする際に敷地が最重要条件になることは当然にご存知であろう。
建築をする際には、敷地があることは当然として、道路が接道していることが重要な要素となる。では、ここでいう敷地とは何のことをさすのだろうか。
「敷地」という言葉は様々なところで使われている、建築行為を行う際に使われる敷地は大きく分けて次の2つに分けられるだろう。
①建築対象地としての敷地
施主が建築を行いたいと依頼したときにまずは該当敷地を示されるだろう。
その該当敷地は、時には施主が持つ全ての土地を示していることもあるだろうし、全体の土地を切り分けてこの部分だけを使って欲しいとの要望もあるかもしれない。
ここでいう、敷地とはいわゆる所有等の中で、建築が可能な敷地を指しているもので、建築基準法に示す敷地とは意味が異なるので注意されたい。
まず建築を計画する中で、確認しておくべきことは、示された敷地の所有者が誰のものであるかは確認しておきたい。土地所有者と建築主が一致していれば何の問題もないだろうが、大きな土地共なると所有者の整理がなされていないということもある話しだ。
施主に公図や謄本の確認をお願いした方がよいだろう。法務局でも、取得することができる。建物は半永久的に建ち続けるものであるので、土地等のことについても整理をつけられるのであればしたいところである。
②建築確認申請上の敷地
上記で示した、施主が建てたい敷地と建築確認申請上の敷地は必ずしも一致しない。建築確認申請上の敷地は、所有権等には関係をしない敷地で、建築主が任意に設定できるようになっている。もちろん、人の土地に勝手に建てることはできないので、施主が建てることを許される権利の中で建てることになる訳であるが、ここで、建築基準法における敷地の定義を確認しておこう。
建築基準法施行令 (第1条一号)
「1つの建築物,または用途上不可分の関係にある2つ以上の建築物のある一団の土地をいう」
この法文を見てもおわかりのとおり、土地の権利等には何も触れられていない。
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建築基準法で求められる敷地の条件とは?
では、例えば空いている土地があるからといって、何でもかんでも建物を建てることができるのだろうか。答えは否である。
建築基準法は、建物を建てるための最低基準を示したものであるが、建物が存在し、利用する人の安全性や快適性を担保する役割を持ち、さらには周辺環境への配慮もしたものと考えられている。
具体的には、敷地が道路に接していることが求められる、接道義務。敷地周囲の環境を守る斜線制限などが求められる。
敷地の捉え方による「新築」と「増築」の違い
建築基準法には、「新築」・「増築」の概念が存在するが定義をしっかりと理解しているだろうか。
「新築」
建築物の建っていない敷地に建築物を新規に造ること、すでにある建築物を解体して新規に建物を建てることを新築という。
「増築」
すでに建築されている建築物の床面積を増やすことをいう。これは横に増やす「横増築」と階数を増やす「縦増築」がある。
「新築」は何も建っていない敷地に、建築物を新規につくるということである。注意したいのは、この敷地が建築基準法の敷地ということである。権利上の敷地ではない。
対して「増築」は、建築物の床面積を増やすとあるが、これは2とおりの捉え方がある。
一つ目は、今建っている建物に接続した形で床面積を増やすことである。これは一般的なイメージに合致するのではないだろうか。
二つ目は、離れに建物を建てることで面積を増やすことである。これは、建築基準法上の同一敷地内に建てることであり、別棟ではあるが、確認申請上の床面積は合算される。
つまり増築は、所有者が同じ敷地において、建築基準法上の敷地において、同一であれば「増築」であるし、同一でなく別敷地扱いにするのであれば「新築」となる。ここで注意をしなくてはいけないのは、建築基準法の敷地は原則一つの建物しか建てられない事を示しているこれは、前渇した以下の条文において定められている。
建築基準法施行令 (第1条一号)
「1つの建築物,または用途上不可分の関係にある2つ以上の建築物のある一団の土地をいう」
”用途上不可分の関係にある2つ以上の建築物”という条文が示されているが、これがそのポイントを示している。では、用途上不可分とは何を示すのであろうか。
用途上不可分とは用途が互いに連携しているために、それぞれの敷地に分割することができない建築物をいい敷地の用途を決定する建築物とこれに関連する建築物とから構成される。
具体的には下記のようなものが考えられる。
① 住宅に付属する
車庫、物置、納屋、茶室、離れ(勉強部屋等)
② 共同住宅に付属する
車庫、物置、自転車置場、電気室、プロパン庫、ごみ置場
③ 旅館、ホテル
離れ(客室)、浴室棟、東屋、車庫
④ 工場
作業場、事務室棟、倉庫、電気室、機械室、厚生棟(寄宿舎等を除く)
⑤ 学校
実習室、図書館、体育館、給食室、倉庫
よって、住宅の場合などは、例えば本家の住宅があり、息子夫婦の住宅が同一敷地内に建つことは原則できないのである。
離れとして増築する2つのメリット
ではここからは、離れとして増築することのメリットを考えてみたいと思う。
接道義務を考える必要が原則なくなる
接道義務は建築基準法において、建築物の敷地に対して道路が接している事を規定する法律であるが、当初の建物をつくる時に原則接道義務を満たしているはずなので、意識的に考える必要はなくなるだろう。例えば、用途上不可分である建物をあえて、別敷地扱いにして建築する(新築)事も可能であるが、そのような扱いにすると接道義務が発生し、権利上の敷地内に通路等の設定が必要になり有効的な土地利用は難しいだろう。そのように考えるとメリットが発生することが理解いただけるだろう。
②インフラ施設の兼用が可能となる
建築を運用する場合において欠かせないのが、水道、下水道、電気、ガスなどのインフラ設備である。このインフラ設備の供給は「1敷地1引き込み」の原則をとっているパターンが多い。つまり、別敷地で建物を建ててしまうと、基にあったインフラ設備を活用すればできそうなものをインフラ会社等はこれを原則認めないと考えるのである。
これは、仮に同一所有者が隣接敷地に建物をそれぞれの敷地に一つずつ建てていたとする。なんらかの理由でその一つを売却することになったとしよう。この建物それぞれがインフラを共有している状態であった場合、インフラ会社はその売却した側の敷地に新たにインフラ設備を共有しなくてはならなくなる。これは技術的には不可能ではないが、煩わしさが残りインフラ会社は基本的には好まない。
だが、同一所有者が同一敷地に建てる場合はそのような心配は無用となり、兼用が可能となる。
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離れを増築する時考えておくべき4つのこと
①増築の場合は、既存遡及が必要になる場合があるので注意が必要
現存する建物に対する建築基準法の効力は、建設時の建築基準法に合致していることが求められる。建築基準法は災害などの教訓を生かし、日進月歩改正をされている。
では、今までに建っていた建物は法律違反なのかというとそうではない。そういう建物の事を「既存不適格建築物」と呼ぶ。
これを示す法律の根拠は、法第三条第三項第二号に示されている。
<法第3条第2項 >
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
では離れを増築する時に、既存不適格を継続したままで出来るのかというとそれだけではない。増築工事をすることで既存不適格が消えてしまう事がある。この根拠は法第3条第3項第三号に示されている。
<法第3条第3項 >
前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物、建築物の敷地又は建築物若しくは
その敷地の部分に対しては、適用しない。
第3号 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地
これは、増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替えの工事をする場合に、増築工事をする部分だけでなく既存部分にも既存不適格が消えてしまい、現行法が適用されるという規定である。
これでは増築をする事で、既存の建物に手をいれなくてはならず、経済的にも不利益になる可能性があるのでいくつかの緩和規定がある。その緩和措置が法86条の7で示されている。
法86条の7には、1項から4項までが示されており、難解な条文であるので要点をまとめたい。
〈既存不適格が継続する小規模な増築工事(法第86条の7第1項)〉
小規模な増築工事などについて既存不適格の継続を認めるものである。条件にあてはまる小規模な増築であれば、既存部分に現行法が適用されないだけではなく、増築部分にも現行法が適用されない。
〈複数独立部分がある場合の既存不適格の継続(法第86条の7第2項)〉
第2項に掲げる条文の規定は、既存部分に独立しているとみなされる部分が複数ある場合に、離れているところの独立している既存部分には既存不適格が継続するというものである。
〈増築部分のみへの現行法適用(法第86条の7第3項)〉
第3項に掲げる条文の規定は、既存部分は既存不適格を継続し、増築部分には現行法を適用するものである。
〈移転の扱い(法第86条の7第4項)〉
改正前は敷地内での移転に限られていた既存不適格の継続を,敷地外への移転にも認定により拡大するものである。
第1項から第4項で列記されていない条文は,増築等において緩和がないので,既存不適格が消滅してしまう
②延焼ラインが発生する可能性あり
住宅程度の小屋などであればまず気にする必要はないかもしれないが、一応気に止めておきたい。気にすることは建物相互間に発生する延焼ラインで、既存建物の外壁面に発生する笠かもしれないということである。
敷地内に複数の建築物があれば、必ずすべてにおいて延焼ラインが生じるわけではない。法文では、複数の建築物の延面積合計が500㎡以内であれば、それらの建築物は、一つの建築物とみなすとされている。すなわち延焼ラインは生じない。
また、規模や用途によっては、そもそも2以上の建築物とみなさないような取扱いも規定されている。
「附属建築物のうち自転車置場、平屋建の小規模な物置(ゴミ置場も含む。)、受水槽上屋、屎尿浄化槽及び合併浄化槽の上屋、ポンプ室で主要構造部が不燃材料で造られたもの、その他の火災のおそれが著しく少ないものについては、法第2条ただし書の「その他これらに類するもの」として取り扱い、本体建築物においては延焼のおそれのある部分を生じないものとする。
離れを増築したいと思う時などは、既存建物をいじる必要性はとても思っていないだろう。
よくよくこの取り扱いを頭に入れて計画していきたいものである。
③建ぺい率、容積率は注意して
増築確認申請をする際、適用する法律は現行法である。法律等の改正により現行法に適合しなくなったものも、適用の除外ということで、既存不適格建築物として、存在し続けることが認められている。ただ、増築をする場合は原則既存棟を含めて現行法に適合というのが原則である。
そこで問題となる一つの要素が、建ぺい率、容積率等の問題である。
容積率や建ぺい率の制限値改正は2003年に全国的には行なわれているが、自治体によっては定められる場所もあるため、ある程度の古い建物である場合は注意が必要である。
当初は、建ぺい率や容積率に余裕を持って建てていたつもりが、制限値の改正により、いっぱいになっていたり、または不適格になっていたりすることも十分にありうるので注意されたい。
④斜線制限は後退距離変わる可能性あり
これも、前喝したとおりであるが、離れを増築したことによる、斜線制限を既存建物が法令違反にぬらないことへの注意点である。
増築行為をしようと思った時についつい増築建物ばかりに意識がいきがちになるかもしれないが、ある程度計画が進んでから違反状態になってしまっていたなどとなると作業の戻りも増え施主の信用も失いかねないので注意が必要だ。
例えば、道路側に離れを増築しようと考えた場合、この離れが道路側に一番近い場合は、既存建物のセットバック距離はここで決まってしまう訳だ。
当時斜線制限をいっぱいに使い計画していた場合などは、このような計画をするとアウトになるかもしれないので頭の片隅においておくべきだろう。
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最後に
離れというものがどのように定義されるか、また建築基準法における増築の定義についても確認してきたが、離れを増築する際に気にとめておくべき知見についておわかりいただけただろうか。
施主等は、増築計画を依頼してくる際に、どのようなプラニングができるのか、どのような問題が生じるのかが未知であるから、建築士などの専門家に依頼してくるのである。
当然、特定の企業に勤めるのであれば勧めたい建物などがある訳であるが、幅広い知見で施主に適切なアドバイスをしたいものである。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。