建築の仕事をしていると避けては通る事ができない、無窓居室。設計をしている方は避けなければならないと思って計画をしている事だろう。
しかし、止むを得ず無窓居室を設ける事になってしまった場合の代償を深く考えた事があるだろうか。本来は設けなくて良いものまで、設ける事による代償は建築が終わってからの施設維持にまで話が及ぶ。
ここでは、無窓居室について深く掘り下げてみる事で、知見を深めていきたい。
建築基準法に出てくる無窓居室とは?
無窓居室とは、言葉の通り窓が無い居室という事を指しているのだが、何共暗そうな場所に感じることは、皆同じだろう。
実は、建築基準法では「無窓居室」という言葉はダイレクトには出てこない、条文の中では、「条件を満たす開口部を有しない居室」という表現で出てくる。今や、「無窓居室」という言葉は、業界内では当たり前のように使われているのだ。
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無窓居室は3つの観点から構成されている
条文を闇雲に読み始めても、無窓居室は多義に渡りすぎており、中々整理することができないだろう。
無窓居室は整理をしていくと実は、3つの観点から構成されている事に辿り着く。
その3つとは、「防火」「内装」「避難」
である。これから、その3つの観点がどのような内容を、表すのかを紹介していこう。
防火上の無窓居室とは?
・関連条文
法35条の3→令111条
<法第35条の3>
政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。ただし、別表第一(い)欄(1)項に掲げる用途に供するものについては、この限りでない。
【引用:http://www.houko.com/00/01/S25/201.HTM】
<令111条>
法第35条の3(法第87条第三項において準用する場合を含む。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号のいずれかに該当する窓その他の開口部を有しない居室とする。
一 面積(第20条の規定により計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の20分の1以上のもの
二 直接外気に接する避難上有効な構造のもので、かつ、その大きさが直径1メートル以上の円が内接することができるもの又はその幅及び高さが、それぞれ、75センチメートル以上及び1.2メートル以上のもの
・概要
防火上の無窓居室はその居室を区画する主要構造部を耐火構造とするか不燃材料で作らなければならない。
内装制限上の無窓居室とは?
・関連条文
令128条の3の2
<令128条の3の2>
法第35条の2(法第87条第3項において準用する場合を含む。次条において同じ。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号のいずれかに該当するもの(天井の高さが6メートルを超えるものを除く。)とする。
一 床面積が50平方メートルを超える居室で窓その他の開口部の開放できる部分(天井又は天井から下方80センチメートル以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の50分の一未満のもの
二 法第28条第一項ただし書に規定する温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室で同項本文の規定に適合しないもの
・概要
内装制限上の無窓居室は、室内に面する全ての天井と壁を準不燃材料以上で仕上げなければならない。
避難上の無窓居室とは?
・関連条文
法第5章「避難設備等」第2節、第3節、第4節、第6節
・概要
■第2節廊下、避難階段、出入口
採光無窓居室のある階に適用になる。
<令120条>
建築物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。次条第一項において同じ。)においては、避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下同じ。)を居室の各部分からその1に至る歩行距離が次の表の数値以下となるように設けなければならない。
構造
居室の種類 |
主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料で造られている場合(単位 メートル) | 上欄に掲げる場合以外の場合(単位 メートル) | |
(1) | 第116条の2第1項第1号に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は法別表第一(い)欄(4)項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室 | 30 | 30 |
(2) | 法別表第1(い)欄(2)項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室 | 50 | 30 |
(3) | (1)又は(2)に掲げる居室以外の居室 | 50 | 40 |
<令116条の2>
法第35条(法第87条第3項において準用する場合を含む。第127条において同じ。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号に該当する窓その他の開口部を有しない居室とする。
一 面績(第20条の規定より計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の20分の1以上のもの
二 開放できる部分(天井又は天井から下方80センチメートル以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の50分の1以上のもの
■第3節排煙設備
排煙無窓居室には排煙設備を設置しなければならない。
<令126条の2>
法別表第1(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500平方メートルを超えるもの、階数が3以上で延べ面積が500平方メートルを超える建築物(建築物の高さが31メートル以下の部分にある居室で、床面積100平方メートル以内ごとに、間仕切壁、天井面から50センチメートル以上下方に突出した垂れ壁その他これらと同等以上に煙の流動を妨げる効力のあるもので、不燃材料で造り、又は覆われたもの(以下「防煙壁」という。)によって区画されたものを除く。)、第116条の2第1項第2号に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は延べ面積が1000平方メートルを超える建築物の居室で、その床面積が200平方メートルを超えるもの(建築物の高さが31メートル以下の部分にある居室で、床面積100メートル以内ごとに防煙壁で区画されたものを除く。)には、排煙設備を設けなければならない。
【引用:http://www.houko.com/00/02/S25/338.HTM#s5.3】
■第4節非常用の照明装置
採光無窓居室には非常用の照明設備を設置しなければならない。
<令126条の4>
法別表第1(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物の居室、階数が3以上で延べ面積が500平方メートルを超える建築物の居室、第116条の2第1項第1に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は延べ面積が100平方メートルを超える建築物の居室及びこれらの居室から地上に通ずる廊下、階段その他の通路(採光上有効に直接外気に開放された通路を除く。)並びにこれらに類する建築物の部分で照明装置の設置を通常要する部分には、非常用の照明装置を設けなければならない。
■第6節敷地内の避難上、消化上必要な通路等
採光無窓居室と排煙無窓居室のいずれかを有する建築物には敷地内の避難上、消火上必要な通路等を設けなければならない。
<令127条 1項>
この節の規定は、法第35条に掲げる建築物に適用する。
【引用:http://www.houko.com/00/02/S25/338.HTM#s5.3】
<法35条の3>
政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。
【引用:http://www.houko.com/00/01/S25/201.HTM】
<令128条>
敷地内には、第123条第2項の屋外に設ける避難階段及び第125条第1項の出口から道又は公園、広場その他の空地に通ずる幅員が1.5メートル以上の通路を設けなければならない。
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意外と理解していない人が多い!消防法の無窓階とは?
建築物の地上階で、避難上の有効開口、消火活動上の有効開口がない階を「無窓階」と呼ぶ。建築基準法の無窓居室・無窓とは違い、消防隊の進入や、室内の人員の避難を目的とした「進入可能な開口部の大きさ」を示すものであり、採光のための窓の有無や大きさとは関係しない。
消防法にあける無窓階の判定は、その名称の通り「階」が判定の単位となるため、1階は普通階、2階が無窓階、3階が普通階といったパターンも有り得る、階ごとに消防設備の基準が変化する。なお、地下は窓が存在できず、外壁の外側は地面のため、無窓階と同様の状況である。しかし、消防法では「地階」として別の基準が存在しており、無窓階ではなく「地階」としての防災設備判定を必要とする。
消防法の基準に準じた開口チェックを実施し、その階が無窓階と判定された場合、消防隊の進入が困難となるため、その階に設置する消防設備の基準が厳しくなる。屋内消火栓や自動火災報知設備についても、設置面積の基準が厳しくなるため、防災設備のコストが増大する。
無窓居室のデメリットとは?
無窓居室になってしまった時には、いわゆる交換条件が課される。そのデメリット要因となる件について紹介していこう。
防火上の無窓居室となった場合
防火上の無窓居室となる条件は以下両者を満たすものである
① 採光上有効な面積の合計が、当該居室の床面積の1/20未満のもの
②直接外気に接する避難上有効な構造のもので、かつ、その大きさが直径1m以上の円が内接することができないもの又はその幅及び高さが、それぞれ、75cm未満及び1.2m未満のもの
上記を満足してしまう、居室は防火上の無窓居室となり、以下のペナルティを課せられることになる居室を区画する主要構造部を耐火構造又は不燃材料とする
内装制限上の無窓居室となった場合
内装制限上の無窓居室となる条件は以下のいずれかを満たすものである
①床面積が50m2を超える居室で窓その他の開口部の開放できる部分(天井又は天井から下方80cm以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の1/50未満のもの
②法第28条第1項ただし書に規定する温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室で同項本文の規定に適合しないもの
上記を満足すると、内装制限上の無窓居室と判定され、以下のペナルティが課せられる。
壁、天井の仕上げを準不燃材料以上とする
避難上の無窓居室となった場合
避難上の無窓居室となる場合は以下の通りである。
採光上の無窓居室
採光上有効な開口部の面積が居室面積の1/20未満のもの
上記に該当する場合は、採光上の無窓居室と判定され、ペナルティとして以下が課せられる
①直通階段までの歩行距離30m以内とする
②非常照明装置を設置する
排煙上の無窓居室
排煙上有効(天井又は天井から下方八十センチメートル以内の距離にある部分に限る。)な面積の合計が、当該居室の床面積の1/50未満のもの
上記に該当する場合は、排煙上の無窓居室と判定され、ペナルティとして以下が課せられる
①排煙設備を設置する
換気上の無窓居室となった場合
換気上の無窓居室となる場合は以下の通りである
換気上有効な開口部の面積が居室面積の1/20未満のもの
上記に該当する場合、換気上の無窓居室と判定され、ペナルティとして以下が課せられる
自然換気設備、機械換気設備又は空気調和換気設備を設置する
種類 | 判定 | ペナルティ |
防火無窓居室 | ① 開口部面積>床面積1/20
② 規程構造 |
主要構造部を耐火構造又は不燃材料とする |
内装制限無窓居室 | ①50m2を超える居室で
開口部面積>床面積1/50 ③ 温室度調整を必要とする居室 |
壁、天井の仕上げを準不燃材料とする |
採光無窓居室 | 開口部面積>床面積1/20 | ① 直通階段までを30m以内
② 非常照明を設置 |
排煙無窓居室 | 開口部面積>床面積1/50 | 排煙設備を設置 |
換気無窓居室 | 開口部面積>床面積1/20 | 換気設備を設置 |
無窓居室になってしまった時の代償を考える
ここまでは、無窓居室を計画してしまったら、どのようなペナルティを課せられるのかを説明してきたが、ここからはそのペナルティがどのような代償を生むのかを考えてみたい。
①主要構造部を耐火構造とする場合
主要構造部を耐火構造とする場合とは、いわゆる間仕切り壁を耐火構造にすると考えていただけたら良いであろう。普通の間仕切り壁は、木軸の下地や軽量鉄骨の下地に石膏ボードを貼り、壁紙を貼るというイメージであろう。
それを耐火構造にすると考えると、軽量鉄骨下地に石膏ボードを両面に2枚貼り等する認定工法等にする必要がある。その石膏ボードが割り増しになるので、工事費は嵩むものとなる。
又、同様の事が床及び屋根にも言えるので注意が必要である。
②主要構造部を不燃材料とする場合
主要構造部を不燃材料とする場合とは、間仕切り壁等の下地と仕上げを不燃材料等にすると考えいただけたら良いであろう。下地を木軸としている場合は軽量鉄骨を採用する方向になり、石膏ボード等も不燃認定品を使い、仕上げを木板貼り等と考えていたら、不燃クロス等への変更を余技なくされる。工事費は当然嵩むものとなる他、本来の間仕切り構造の一貫性や仕上げイメージ等を阻害する要因を生むものとなるであろう。
③壁、天井の仕上げを準不燃材料とする場合
壁、床、天井は基本的には下地材があり、仕上げ材があるというように構成されるものである。今回の仕上げとは、いわゆる壁であれば、クロスや塗料などを指しており、部屋の表面に直に接しているものと考えてよい。材料は、防火上の観点から難燃材、準不燃材、不燃材と区別され、不燃材が名前の通り、最上位のランクに位置する。準不燃材は中間位置に属する訳であるが、最近のクロス等は準不燃材に認定されているものが普通であるので、あまり心配はいらないだろう。しかし、紙クロスや木板等を採用したいと考えている場合は、注意が必要である。
④非常照明を設置する場合
非常照明は、建築基準法における非常事態における明かりを担保するものである。窓がある事により、明かりが差し込むとの解釈で、窓が無いのであれば、非常照明によって担保するというものである。
非常照明は、一般照明に組み込まれているものや単独で設置する物の両者に分かれるのだが、普通の計画よりもコストが嵩むのは否めない。また、非常照明が設置されると、年に1度行われる建築設備点検を要する為、ランニングコストもかかる事になる。
⑤排煙設備を設置する場合
排煙設備とは、大きく分けて自然排煙設備と機械排煙設備にわかれる。自然排煙設備とは、天井すれすれの部分に小窓が付いているもので、煙が上に上がる性質を利用して外部に煙を逃がすものである。機械排煙設備は、煙を外部に吸い出す機械で、換気扇等をイメージしてもらえれば良い。自然排煙設備の窓は、一般の窓と兼用ができるので、垂れ壁等が少ない窓を計画できれば、一般窓として計画する事ができ弊害は少ない。専用の排煙窓を作るのはコストが嵩むものとなる。
機械排煙設備は、いわゆる機械であるので、非常照明と同様に1年に1回の建築設備点検が必要なる。
⑥換気設備を設置する場合
建築基準法における、換気はまずは窓によってとると考えられている。この換気無窓居室に該当する場合は、法に基づき換気設備を設置するとなるが、火を使用する居室を除けば基本的には窓が適切に設置されていれば、不要となる。しかし、今はシックハウス規制や換気設備を適切にし、建築物内の環境を整える動きがあるので、換気設備が各居室についている事が多い。もし、設置予定が無い部屋であったのなら、換気設備分のコストが余分にかかる事になる。換気設備も、1年に1回の建築設備点検が必要になる。
無窓居室を避ける計画の勘所
無窓居室が、弊害をもたらすことは理解していただけたかと思う。
結論から申し上げると、無窓居室を作らないということが基本的には肝心になってくる。
そう為には、居室という意味をしっかり理解すること、窓側に部屋を持ってくることを意識することである。
居室とは、人が継続的に執務等をすることと定義をされるものであるが、例えば「備品室兼従業員控室」などとすると、当然のことながら、居室とカウントされる。
この記事を読んでいただいたならわかるかと思うが、無窓居室というリスクを避ける為に、部屋を細分化するなどして、回避するべきだろうと提案したい。
まとめ
建築基準法は、災害などがある事に法改正を繰り返していく、しかもその法改正はほとんどが、厳しい方向への改正となるパターンが多い。
今この時点で、法の隙間を抜けて、回避できる事があったとしても、それがベターな選択であるのかはよくよく考えた方が良い事項である。
何故なら事故等が、法の不完全性によって起きる事もあるからである。
設計者として、心がけたいのは安全面や管理面などを踏まえた設計を心がけるべきだろう。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。