建築基準法の中には、「建築審査会」という言葉がたまに登場するのはご存知だろう。だが建築審査会ってなんだろうと深く考えた事がない人がほとんどではないだろうか。
仕事の中で、「この案件は建築審査会の同意を必要とする案件だからよろしく」と急に言われたら対応をする事はできるだろうか?
建築士の試験でも、建築審査会の同意を必要とするのは、どの法文か?等との問題が出てくる。
ここでは、法文の中では当たり前に出てくる建築審査会についての知識を深めていきたい。
建築審査会とは何なのかを確認しておこう
まず、建築基準法の中に、建築審査会が出てくる事は周知の通りであるが、建築審査会が法的に定義されているので確認をしておこう。
(建築審査会)
第78条 この法律に規定する同意及び第94条第1項の審査請求に対する裁決についての議決を行わせるとともに、特定行政庁の諮問に応じて、この法律の施行に関する重要事項を調査審議させるために、建築主事を置く市町村及び都道府県に、建築審査会を置く。
2 建築審査会は、前項に関する事務を行う外、この法律の施行に関する事項について、関係行政機関に対し建議することができる。
(建築審査会の組織)
第79条 建築審査会は、委員五人又は七人をもつて、組織する。
2 委員は、法律、経済、建築、都市計画、公衆衛生又は行政に関しすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、市町村長又は都道府県知事が任命する。
(委員の任期)
第80条 委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員は、再任されることができる。
3 委員は、任期が満了した場合においては、後任の委員が任命されるまでその職務を行う。
(委員の欠格条項)
第80条の2 次の各号のいずれかに該当するものは、委員となることができない。
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
(委員の解任)
第80条の3 市町村長又は都道府県知事は、それぞれその任命に係る委員が前条各号のいずれかに該当するに至った場合においては、その委員を解任しなければならない。
2 市町村長又は都道府県知事は、それぞれその任命に係る委員が次の各号の一に該当する場合においては、その委員を解任することができる。
一 心身の故障のため職務の執行に堪えないと認められる場合
二 職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認められる場合
(会長)
第81条 建築審査会に会長を置く。会長は、委員が互選する。
2 会長は、会務を総理し、建築審査会を代表する。
3 会長に事故があるときは、委員のうちからあらかじめ互選された者が、その職務を代理する。
(委員の除斥)
第82条 委員は、自己又は三親等以内の親族の利害に関係のある事件については、この法律に規定する同意又は第94条第一項の審査請求に対する裁決に関する議事に加わることができない。
(条例への委任)
第83条 この章に規定するものを除く外、建築審査会の組織、議事並びに委員の報酬及び費用弁償その他建築審査会に関して必要な事項は、条例で定める。
<条文引用:houko.com (http://www.houko.com/00/01/S25/201.HTM)>
建築基準法の第78条~第83条において定められている。
ポイントをまとめると以下の通りである。
・法律に規定する同意の議決を行う
・審査請求(94条1項)に対する採決の議決を行う
・建築主事を置く行政に設置される
・委員は行政長が任命した、経験知識を有するもので、5人又は7人で組織される。
・任期は2年である。
このポイントを押さえておくだけでも、大分建築審査会の姿が見えてきたのではないだろうか。
建築審査会は、建築主事を置く、市町村及び都道府県に置くとされている。
いろいろ言葉の定義がややこしいと思うので、一度ここで整理をしておく。
建築主事は、人口25万人以上の市には必ず設置される必要がある。人口25万人未満の市町村等には設置義務はないが、設置は可能である。また、都道府県は建築主事を置かない市町村の建築確認に関する事務を行わなくてはならない為、設置する必要がある。建築主事を置く地方公共団体の長は特定行政庁と呼ばれる。
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建築審査会が議決を行う法律に規定する同意とは?
以下、建築基準法からの抜粋である。
第43条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第44条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。
<条文引用:houko.com (http://www.houko.com/00/01/S25/201.HTM)>
建築基準法43条は、建築物の接道を規定する条文である。ただし書き部分に、「特定行政庁が・・・・建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りではない。」とある。要するに、建築審査会の同意を得て、特定行政庁が許可したものは、接道義務を満たさなくてもよいという条文である。
このように建築審査会は行政が許可を下す為に、建築審査会の同意を必要とするという流れで法文上で規定されている。
では、この建築審査会の同意事項がどのような所に規定されているのかを確認しておこう。
<特定行政庁の許可>
法43条 接道規定(敷地は道路に2m以上接しなければならない)の緩和
法44条 道路内の建築制限の解除(公衆便所、巡査派出所、公共用歩廊)
※道路内であっても、地盤面下や特定高架道路の上空・路面下に設ける
建築物は同意不要
法47条 壁面線による建築制限の解除
法48条 用途地域内の建築制限の緩和(公聴会要)
法52条 計画道路又は壁面線がある場合の容積制限の緩和
法53条 壁面線がある場合又は公園等内の建ぺい率の緩和
法53条の2 公衆便所・巡査派出所又は周囲に公園等がある場合の最低限度敷地面積の緩和
法55条 第一種・第二種低層住専内の高さの限度超過
法56条 対象区域内の日影による高さの制限の緩和
法59条 高度利用地区内の高さ制限の超過
法59条の2 敷地内に広い空き地を有する建築物の容積率・高さの限度超過
法68条の3 再開発等促進区等の敷地内に有効な空地が確保されている場合の高さ制限超過
法68条の7 予定道路を道路とみなす場合<特定行政庁の指定>
法3条 保存建築物の指定
法42条 1.8m未満の道の指定
法46条 壁面線の指定(公聴会要)
法68条の7 予定道路の指定(公聴会要)<特定行政庁の認定>
法3条 文化財・保存建築物であった物の復元
同意事項だけでも、上記のように多数存在する。
建築審査会のもう一つの大きな役割として、第94条1項の審査請求に対する採決についての議決というものがある。採決の議決というのは、なんとなくイメージがつくと思うが、第94条1項の審査請求がなんであるのかイメージができない。確認をしよう。
第94条
建築基準法令の規定による特定行政庁、建築主事若しくは建築監視員、都道府県知事、指定確認検査機関又は指定構造計算適合性判定機関の処分又はこれに係る不作為に不服がある者は、行政不服審査法第3条第2項に規定する処分庁又は不作為庁が、特定行政庁、建築主事若しくは建築監視員又は都道府県知事である場合にあっては当該市町村又は都道府県の建築審査会に、指定確認検査機関である場合にあっては当該処分又は不作為に係る建築物又は工作物について第6条第1項(第87条第1項、第87条の2又は第88条第1項若しくは第2項において準用する場合を含む。)の規定による確認をする権限を有する建築主事が置かれた市町村又は都道府県の建築審査会に、指定構造計算適合性判定機関である場合にあっては第18条の2第1項の規定により当該指定構造計算適合性判定機関にその構造計算適合性判定を行わせた都道府県知事が統括する都道府県の建築審査会に対して審査請求をすることができる。
<条文引用:houko.com (http://www.houko.com/00/01/S25/201.HTM)>
要するに、役所から建築行為業務に対する処分等を受けた場合において、不服がある場合は建築審査会に対して審査請求をしてよいというものである。
では、建築審査会に対して審査請求された案件についての事例を確認してみよう。
事例:接道義務違反に対する審査請求(東京都中野区)
23中建審・請第3号審査請求事件(B事件) | ||||
審査請求年月日 | 平成23年10月10日 | |||
審査請求人住所 | 中野区白鷺一丁目 | |||
審査請求の内容 | 建築確認処分の取消し | |||
処分庁(不作為庁) | ビューローベリタスジャパン株式会社(指定確認検査機関) | |||
審査請求に係る建築物 | 建築物の敷地 | 中野区白鷺一丁目 | ||
地域・地区 | 第一種低層住居専用地域(60/150)
準防火地域 第2種高度地区 |
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建築主住所 | 杉並区世田谷区松原六丁目 | |||
用途 | 一戸建ての住宅 | 構造 | 木造 | |
敷地面積 | 329.76㎡ | 階数 | 地上2/地下0 | |
建築面積 | 102.41㎡ | 延べ面積 | 173.08㎡ | |
請求内容 | ||||
≪平成23年9月5日提起事件(B事件)≫
指定確認検査機関は、接道義務を満たしている否かを確認しないで確認処分をしているので、違法である。 一部を除いて現況道路でないにも関わらず、接道義務を満たしているとする判断は、建築基準法第43条1項本文及び42条1項5号の解釈を誤るものであり違法である。 現況道路として開設されていない土地は、現況道路になる余地はないので、本件処分は取り消されるべきである。 本件土地の前の道路のみを特別扱いすることは、行政法上の平等原則著しく反し違法である。 |
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処分庁の弁明 | ||||
≪平成23年9月5日提起事件(B事件)≫
(確認申請図書の)配置図に前面道路の記載があり、道路幅員、接道長さ、道路種別・位置に基づき法第43条の接道の適合性を確認している。さらに法77条の32第1項に基づく特定行政庁中野区長への照会においても、敷地・道路に関して指摘はなく、本件処分にはなんら問題がない。 |
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裁決年月日 及び主文 | ||||
平成23年12月7日 本件審査請求をいずれも棄却する。 | ||||
中野区ホームページより
http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/502000/d004476_d/fil/d15100005_11.pdf
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建築審査会はどういう人がいるのだろうか
建築審査会ってどういう人がおこなっているのだろうか、基準法の法文では経験者等がなることになっているが、具体的にはどうなのだろうか。
いくつかの自治体の建築審査会の名簿と肩書きが公開されていたので紹介する。
・大学の教授、講師
・弁護士
・役所の上長
・企業の社長
・医師会の会長
・財団法人の研究員
など
上記の通り、ふさわしい肩書の方がなっているようである。
建築審査会はどのように行われているのか
法文に建築審査会の同意が得られれば、特定行政庁の許可を経て、制限を緩和できる等となっているが、なんでもかんでも同意を得られるのかというとそういうものでもない。
まず、普通の案件であって計画が厳しいから建築審査会の同意を得れば大丈夫だろう等とは当然考えないでほしい。
この同意を得られるケースは本当にレアなケースであり、純粋な建築行為の中では無縁だと思っても差支えないであろう。
ここでは、事例を紹介して建築審査会がどのように行われているのかを掴んでいただきたい。
平成27年度 第9回川崎市建築審査会(公開用)
開催日時 | 平成28年2月12日(金)
午後2時00分~午後3時40分 |
開催場所 | 市役所 第3庁舎 18階 第1会議室 |
出席者 | |
委員 | 田村会長、大村委員、後藤委員、川口委員、原委員 |
幹事 | 石川企画課担当係長、秋葉建築指導課長(議題3以降を除く)、白井建築審査課長、長谷川宅地審査課担当係長、佐藤環境対策課長、西村生活衛生課担当、浅井予防課課長補佐 |
特定行政庁 | 天神指導部長、大場建築指導課担当係長、佐々木建築審査課担当係長 |
関係人 | 教育委員会事務局中学校給食推進室共同調理場整備推進担当 古俣担当課長、亀村担当係長、米岡担当 |
事務局 | 関山まちづくり調整課長、松井担当課長、小林課長補佐、島担当 |
議事 | |
(特定行政庁 大場担当係長)はい。それでは、議案第15号の許可申請について御説明いたします。はじめに、申請地の位置でございますが、スクリーンを御覧ください。申請地は、幸区南幸町で、赤いポイントで示したところでございます。本申請は、市内の中学校に配送するための給食を調理する、学校給食センターを新築するに当り許可を受けるものでございまして、許可を要する建築基準法上の規定は、法第48条に基づく建築物の用途に関する規制でございます。
はじめに、用途規制について御説明いたします。都市計画法の規定に基づいて定められる、12種類の用途地域に応じて、建築できる又はできない建築物が、それぞれ定められております。今回、申請地は近隣商業地域内にございますので、ここでは、この地域における用途規制について簡単に説明させていただきます。 (中略) 今回、建築する学校給食センターは、建築基準法上の用途としては工場に該当することから、申請地に建築することはできません。しかし、この制限には、ただし書の規定がございまして、「特定行政庁が近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便及び当該住宅地の環境を害するおそれがないと認め、又は公益上やむを得ないと認めて許可した場合においては、この限りでない。」とされております。また、法第48条第14項では、「ただし書きの規定により許可する場合は、あらかじめ、その許可に利害関係を有する者の出頭を求めて、公開による意見の聴取を行い、かつ、建築審査会の同意を得なければならない。」とされております。 (中略) 続きまして、許可申請の概要について御説明いたします。お手元の資料では1ページ左側でございます。申請者は、株式会社川崎南部学校給食サービス代表取締役山本德憲、建築物の用途は、学校給食センターで、工場に該当します。申請場所は、幸区南幸町3丁目149番2でございます。建ぺい率などは、記載の通りでございます。 (中略) 計画概要については以上でございますが、今回の計画について、特定行政庁が許可相当であると判断した理由について御説明させていただきます。本計画は、市議会の「中学校完全給食の早期実現を求める決議」等を踏まえ、「川崎市立中学校給食の基本方針」及び「川崎市立中学校完全給食実施方針」に基づいて、早期に中学校完全給食の実施をするため、市内南部エリアを中心に給食を配送する施設の整備を行うものです。本市の中学校の昼食は、家庭からの弁当とミルク給食を基本としておりましたが、中学校完全給食の実施に伴い、育ち盛りの生徒に、栄養のバランスのとれた、安全、安心で温かい食事が提供されることで、健康の増進を図るとともに、給食を生きた教材として活用することで、さらなる食育の充実が図られることから、高い公益性を有する計画となっております。中学校 完全給食を実施するため、合計31,000食分の食数を賄う必要がありますが、各施設においては、厳しい衛生管理基準を確保しつつ、必要な食数を賄える施設整備が可能となる規模の敷地及び調理後2時間以内の喫食を実現するための配送計画が可能となる立地である必要があることから、市内に3か所の学校給食センターを整備いたします。このような状況の中で、申請地は市内の南部エリアの中心に位置する市有地であり、合計食数のうち、約半数に当る15,000食を賄うことができる規模の敷地であることに加え、主要な幹線道路に近接している配送計画上の利便性にも優れた立地であることから、適正な施設整備・運営を早期に実現するに当り、申請地に建築する必要があります。なお、 周辺の環境への配慮として、建物を敷地境界から離して周辺への圧迫感を極力抑えた計画とし、騒音、振動、臭気等についても、排気方向及び原動機等機器類の配置の工夫や脱臭機の設置等により、建物による影響を極力低減させたものとなっております。給食の配送計画についても、周辺の交通状況に配慮し、極力車両が集中しないよう計画しており、事業全体としても周辺の環境に十分配慮された計画となっております。以上のことから、本計画は、公益上やむを得ないと認められ、建築基準法第48条第8項ただし書の規定に基づく許可相当と判断いたしました。説明については以上でございます。御審議のほどよろしくお願いいたします。 (質疑応答 中略) (田村会長)いかがでしょうか、ほかに御質問はございますか。随分と時代が変わったものだとお感じになられている先生方もいらっしゃるかと思います。私も、同じ思いです。それでは、許可して差し支えないものということで、よろしいでしょうか。 -各委員賛成- |
川崎市ホームページより
http://www.city.kawasaki.jp/500/cmsfiles/contents/0000017/17745/27ken-9.pdf
建築審査会は月に一度、同意案件などを主体に、委員があつまり行われているようである。
議事録を読んでいただくとわかるのであるが、特定行政庁が許可をする事を念頭に会議が進められている、建築審査会でも賛成を得られる事が前提であろう。
よって、特定行政庁の許可を得る事つまり、建築審査会の同意を得る事はある意味では筋書きがあるという事である。
やはり公共性のある案件等が対象になるのではないかと予測される。
どちらにしろ、許可を得る為の窓口は、建築審査部門であるので、施主と協力の上、綿密な打ち合わせが必要となるであろう。
まとめ
建築審査会、建築実務者においてもそれほど馴染みのあるものでは無いであろう。事例であげたような公共案件や社会的影響力を持つ案件に携わる機会がある場合には、特定行政庁の許可を取る為に、建築審査会の同意を得るという案件にも遭遇する機会があるかもしれない。
建築実務者としては、目の前にこのような案件が出てきたとしても、ひるまずにやり遂げていく必要がある。
経験がある事に越した事はないが、このような機会にはあまりめぐりあわないであろう、その為にもしっかりと知識を持っておくことは重要である。
この記事が、そんな一助になればと思う。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。