もし、あなたがこれから建物を建てようとするなら、まず設計事務所に設計を依頼することになるだろう。ただ設計事務所と一言でいってもその範囲はかなり広い。
アトリエ系設計事務所、組織設計事務所、工務店や工事会社の設計部門など、どのような設計事務所でも建物の設計は可能だが、あなたが建てたいと思う建物によって、どの事務所に依頼するかは変わってくる。
しかし、建築の素人の方がこれらの違いを知っていることは稀だ。今回はこれから建物を建てようとする施主のために、設計事務所にはどのような種類があって、どのような基準で選んでいけば良いかについて、わかりやすく解説していく。
設計事務所の種類について
まずは、設計事務所の定義について。設計事務所とは、いわゆる建物の設計を行う会社のことを言う。建築士法に定められており、規定の建物を設計するには「建築士事務所」の登録を所轄の都道府県にて行わなければならない。
建築士事務所には一級建築士事務所と二級建築士事務所、その他、木造建築士事務所がある。では、それぞれどのような違いがあるのだろうか。
一級建築士事務所とは
一級建築士事務所とは、事務所内に一級建築士が所属する事務所のことをで、どのような建物でも設計が可能だ。超高層のビルから、戸建て住宅まで、あらゆる建物を設計できる資格がある。
つまり、一級建築士事務所登録がされている設計事務所であれば、あなたが建てたいと思う建物を、法律上は問題なく設計できるということだ。
ただ、個々の事務所のスタイルというものがあるので、そこは吟味しなければならない。詳しくは後ほど説明させて頂く。
二級建築士事務所とは
二級建築士事務所とは二級建築士を有しているが、一級建築士は有していない事務所のことを言う。つまり二級建築士が設計できる建物のみ請け負うことができるのだ。
では、二級建築士が設計できる建物とはどのようなものだろうか?法文に沿って説明してみよう。
建築士法 第三条
左の各号に掲げる建築物(建築基準法第八十五条第一項又は第二項に規定する応急仮設建築物を除く。以下この章中同様とする。)を新築する場合においては、一級建築士でなければ、その設計又は工事監理をしてはならない。
一 学校、病院、劇場、映画館、観覧場、公会堂、集会場(オーデイトリアムを有しないものを除く。)又は百貨店の用途に供する建築物で、延べ面積が五百平方メートルをこえるもの
二 木造の建築物又は建築物の部分で、高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超えるもの
三 鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れん瓦造、コンクリートブロツク造若しくは無筋コンクリート造の建築物又は建築物の部分で、延べ面積が三百平方メートル、高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルをこえるもの
四 延べ面積が千平方メートルをこえ、且つ、階数が二以上の建築物
まずは、一について、これらは公共施設や商業施設などが値する。不特定多数の人が出入りする建物ということで、一級建築士のみに制限しているということだろう。
但し、500㎡を超えるものという条件があるので、一の建物でも500㎡以下であれば二級建築士でも設計ができるということだ。
続いて二について。こちらは木造建築物の規定だ。高さ13メートル、軒の高さ9メールというのはおおよそ2階建ての木造建築物に該当する。
つまり、3階建以上の木造建築物の場合は一級建築士しか設計できない。それ以外(2階まで)であれば二級建築士で対応可能ということだ。もし3階建ての住宅を建てたいという場合は、注意をして頂きたい。
次は三について、これは用途に関係なく、RC造や鉄骨造の建物の場合は、延床面積300㎡を超える、階数が2階を超える(3階以上)の場合は、一級建築士のみが設計できる。それ以外の場合は二級でも可能だ。
最後は四について。これも用途に関係なく、1000㎡を超えて2階以上の建物は一級建築士しか設計ができない。それ以外は二級でも可能だ。
このようにあなたが建てたいと思う建物の用途、構造、面積によって、依頼できる設計事務所、建築士は異なってくるので注意したい。
因みに、二級建築士事務所のさらに下のランクに木造建築士事務所があるが、世の中には殆ど存在しないので、これは無視してもらって問題ない。
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設計事務所の選び方
続いて、重要なのは、あなたが何を重視して建物を建てたいかという点だ。デザインを重視したいのか、それともコストを重視して、できるだけ安い価格で建てたいのか、できるだけ早く建物を完成させたいのか。
それぞれによって、依頼する設計事務所は異なってくる。下記に設計事務所の特徴に基づいた分類をしたので確認して欲しい。
アトリエ系設計事務所
アトリエ系設計事務所とは、個性の強い建築家が主催する設計事務所のことで、所員が1人〜20人ぐらいの規模の事務所のことを言う。建築家としてのデザイン性を全面に出した設計が行われるので、デザイン性を重視した建物を建てたいという方はこちらに依頼するのが良いだろう。
但し、高いデザイン性=コスト高というのが建築業界の一般的な常識なので、建設費のアップは否めない。しかし、そこは建築家の腕のみせどころでもあるので、デザイン性とコストの調整の中で、あなたが満足する建物を設計してくれる建築家を選定しなければならない。
また、小規模であればあるほど、所員の数が少ないということもあり、会社としてスピード感に掛けるといったこともあるだろう。1人で何件もの案件を担当させらることも多いので、そのような過多な業務量による対応の遅れといった問題も頭に入れておこう。
対応しやすい主な建物:住宅、小規模の商業施設、公共施設など
組織系設計事務所
こちらは設計事務所として比較的規模が大きく所員の数が概ね20人以上の場合の事務所のことを言う。デザイン性を全面に打ち出すというよりかは、機能性や効率性、コストを重視した建物を設計する傾向にある。
もし、デザイン性をあまり重視しないというのであれば、組織系を選択するのが良いだろう。マンパワーが豊富ということもあり、納期をしっかりと守るのはもちろんのこと、プレゼンにも充分な資料を揃えてくれる筈だ。
あなたが法人の担当者であれば、このような組織系は最適だろう。上司に説明するための資料作りに困ることはない。ただ、設計料という点では、組織が大きいということもあり、高くつくということは忘れてはならない。
また、組織事務所であってもスタッフの技量によっては、デザイン性の高い設計は可能であるのでその辺りは、過去作品をチェックして、選定の際に十分にチェックして頂きたい。
対応しやすい主な建物:マンション、大規模の商業施設、公共施設、オフィス
ゼネコンの設計部門</h4 >
ゼネコンとは(ゼネラルコンストラクター)の略。つまり大手の建設会社のことを言う。ゼネラルということだけあって建築に関わることは何でもやる建設会社だ。
そのため、殆どの場合、社内に設計部門を抱えている。ゼネコン設計部の特徴と言えば施工部門と連携した機能性、効率性、コストを重視した設計が可能という点だ。マンパワーも充分だ。
しかし、デザインという点では、殆どの場合は重視されない傾向にある。デザインは二の次で、とにかく機能性やコストを重視したい場合は、こちらに依頼するのが適しているだろう。
また、ゼネコンの設計部に設計を依頼した場合は、自動的に施工はそのゼネコンが担当することになる。つまり「設計完了」→「入札」→「工事会社選定」といった流れができないので、工事費が高止まりとなる可能性があるのだ。
設計図上の建物はコストが安くできても、実際の見積り書の金額は割高となることも少なくない。そうならないためにも、事前にコスト感覚を把握しておくことは怠ってはならない。
対応しやすい主な建物:マンション、大規模の商業施設、オフィス
建設会社、工務店の設計部門
続いては比較的小規模の建設会社や工務店の設計部門だ。基本的には上述したゼネコンの設計部と特徴は同じとなる。
ただマンパワーという点では見劣りがあるので注意をして頂きたい。しかし、規模が小さければ小さいほど設計部門を抱えているケースが少ないので依頼する機会は少ないかもしれない。
また、社内に設計部門が内場合でも外注で設計を抱えている場合も多々ある。そのような場合はコスト的にも余分な経費がかかってしまうので、直接設計事務所に依頼するのが得策だろう。
いずれにしてもデザイン性、や機能性などの設計力の点でも期待はできないと思っておいたほうが良い。
対応しやすい主な建物:住宅
最後に
以上が設計事務所の選び方となる。設計事務所には様々な種類があるが、まずはあなたがどのような建物を何を重視して建てたいのかを充分に考えて欲しい。
コンセプトが明確であればその条件を基にプロである建築士があなたのイメージを現実のものとしてくれるだろう。建物は専門家だけがつくり上げるのではなく、施主も含めて作ることで寄り良いものなることを忘れないで欲しい。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。