面積区画とは、建築基準法施行令第112条に定められている防火区画の一種である。大きな空間であるほど、ひとたび火災となったとき、火炎の規模は相応に増大する。
そのため消火・救助活動が困難となり、被害も大きくなることが予想される。
そのような被害を防ぐため、火災を局部的にとどめる目的で、建築物の内部を一定面積以下に区画するのが面積区画である。
条文では、第112条の本文および第1項から第8項までがその規定となっている。
面積区画の種類
面積区画は第1項から第4項に規定される、通常の面積区画と、第5項から第8項に規定される高層面積区画に二分することができる。ここでは、それぞれの区画についてその基準を解説する。
面積区画
面積区画について、以下に条文の項目と、規定される内容について整理する。
施行令第112条
第1項 耐火建築物・準耐火建築物の面積区画
第2項 準耐火建築物(45分耐火・外壁耐火)の面積区画
第3項 準耐火建築物(1時間耐火・構造不燃)の面積区画
第4項 第2項・第3項の緩和規定
以下、順に解説を加える。
まず第1項であるが、対象となるのは「主要構造部を耐火構造とした建築物」又は「法第2条第9号の3 イ・ロに該当する建築物」、つまり耐火建築物・準耐火建築物に等しい。
これらのうち、延べ面積が1,500㎡を超えるものが対象となる。ただし、条文では耐火建築物・準耐火建築物と表記していないことは覚えておきたい。これらの建築物は床面積1,500㎡ごとに面積区画しなければならない。
次に第2項では、「法第27条第1項の規定により特定避難時間倒壊等防止建築物とした建築物(特定避難時間が1時間以下)」又は「法第27条第3項 、法第62条第1項、法第67条の3第1項の規定により準耐火建築物とした建築物(第109条の3第2号に掲げる基準又は一時間準耐火基準に適合するもの以外)」で延べ面積が500㎡を超えるものが対象となる。
これらはすなわち、「法別表の特定避難時間倒壊等防止建築物・準耐火建築物」、「準防火地域・特定防災街区整備地区内の準耐火建築物」ということになる。ただし準耐火建築物は外壁耐火構造の準耐火・45分準耐火に限られる。これらは床面積500㎡ごとに面積区画しなければならない。
第3項では、「法第21条第1項ただし書の規定による第129条の2の3第1項第1号ロに掲げる基準に適合する建築物」、「法第27条第1項の規定による特定避難時間が1時間以上である特定避難時間倒壊等防止建築物」、「法第27条第3項 、法第62条第1項、法第67条の3第1項の規定による、第109条の3第2号に掲げる基準又は1時間準耐火基準に適合する準耐火建築物」で、延べ面積が1,000㎡を超えるものが対象となる。
これらは第2項と同様に、「法別表の特定避難時間倒壊等防止建築物・準耐火建築物」、「準防火地域・特定防災街区整備地区内の準耐火建築物」となるが、第2項で除外されていた、特定避難時間が1時間以上である特定避難時間倒壊等防止建築物と、不燃構造の準耐火・1時間準耐火の準耐火建築物が対象となる。これらは床面積1,000㎡ごとに面積区画しなければならない。
高層面積区画
大きな空間での火災と同様に、高層階での火災についても、消火・救助活動は困難となる。したがって、上記の面積区画に加えて、11階以上の階ではさらにこまかい面積での区画が要求されている。それが高層面積区画である。以下に条文の項目と、規定される内容について整理する。
施行令第112条
第5項 11階以上の部分の面積区画
第6項 第5項の面積緩和規定(仕上・下地準不燃)
第7項 第5項の面積緩和規定(仕上・下地不燃)
第8項 階段・昇降路・共同住宅住戸の緩和規定
以下、順に解説を加える。
第5項で対象となるものは、「建築物の11階以上の部分で、各階の床面積の合計が100㎡を超えるもの」であり、この部分は床面積100㎡ごとに区画しなければならない。
第6項・第7項は第5項の緩和規定である。まず第6項では「床面から1.2m以上の壁・天井の仕上・下地を準不燃材料」とし、かつ「区画の開口部を特定防火設備」とした場合に、第5項の区画面積100㎡を、200㎡に緩和することができる。
第7項では「床面から1.2m以上の壁・天井の仕上・下地を不燃材料」とし、かつ「区画の開口部を特定防火設備」とした場合に、第5項の区画面積100㎡を、500㎡に緩和することができる。
逆に言うと、建築物の11階以上の階は、すくなくとも500㎡ごとに区画することが必須であるということであり、室内の仕上・下地や区画開口部の構造によっては区画面積が200㎡、100㎡になるということである。
第8項は階段等の緩和規定であり、その内容は後述するが、あわせて共同住宅の住戸についての規定があるので、ここで解説したい。まずは条文を以下に示す。
第8項 前三項の規定は、階段室の部分若しくは昇降機の昇降路の部分(当該昇降機の乗降のための乗降ロビーの部分を含む。)、廊下その他避難の用に供する部分又は床面積の合計が200㎡以内の共同住宅の住戸で、耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備(第五項の規定により区画すべき建築物にあつては、法第2条第9号の2 ロに規定する防火設備)で区画されたものについては、適用しない。
共同住宅の住戸は床面積の合計が200㎡以内に防火区画すれば、第5項から第7項の区画は緩和される。なおこの場合、その他の部分で第6項・第7項の緩和規定が適用されているときには、共同住宅の防火区画の開口部も特定防火設備としなければならない。
面積だけをみると、第5項はともかく、第6項・第7項の緩和にはならないようにみえるが、これは仕上・下地の不燃・準不燃が要求されないということになる。
なお、これはまた別の規定になるが、11階以上の建築物の場合、一般的に非常用エレベータの設置が必要となるケースが多い。ただし、その設置を免除する場合は、施行令第129条の13の2第3項の規定により、100㎡ごとの区画が必要となる。
そのような建築物の場合は、面積区画の緩和と、非常用エレベータの設置免除とのかねあいを考慮して計画する必要があるだろう。
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面積区画の構造
ここでは、面積区画を形成する床・壁、また開口部の特定防火設備の構造について解説する。
防火区画を形成する構造の耐火性能は、それぞれの区画によって規定が異なる。まとめると以下の通りとなる。
第1項~第3項 1時間準耐火構造の床・壁、特定防火設備
第5項 耐火構造の床・壁、防火設備
第6項・第7項 耐火構造の床・壁、特定防火設備
第1項から第4項の面積区画については、1時間準耐火構造の床・壁と特定防火設備により区画しなければならない。
いっぽう、第5項から第8項の高層面積区画については、耐火構造の床・壁と防火設備(第6項・第7項は特定防火設備)により区画することと規定されている。高層面積区画のほうが、要求される床・壁の耐火性能が高いことに注意したい。
開口部については、いずれも第14項第1号に規定する防火設備・特定防火設備に該当し、常時開放の場合は熱感知または煙感知器連動の閉鎖機構が必要となる。遮煙性能は要求されていない。
さらに第2項については、防火区画のほかに、防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とする規定もあるので注意が必要である。
なお、基本的なこととして、防火区画を形成する壁・床は、建築基準法第2条第5号の主要構造部に該当する。したがって、上記の第112条で規定されている内容とはまた別に、耐火建築物等の規定により、別に要求される耐火性能があることについても注意しておきたい。
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面積区画の免除および緩和
面積区画には、その性質上、区画することが適当でない場合の区画の免除規定がある。また、区画する場合の面積の緩和もある。ここではその内容について、3つのポイントとして解説する。
スプリンクラー設置による面積緩和
令第112条における床面積合計の計算において、スプリンクラー・水噴霧消火・泡消火設備等で自動式のものを設けた部分については、その床面積の1/2を控除できることが第1項に規定されている。
すなわち半分にカウントできる。なお、この規定は第112条すべてにおける緩和なので、面積区画・高層面積区画だけでなく、他の防火区画についても同様である。
なかでもとくに面積区画・高層面積区画は、消防法の規定からスプリンクラーの設置が必要となる場合が多いと思われるので、この面積緩和は有効に活用したい。なお、注意したいポイントとして、条文の上では「自動式のもの」とあるため、たとえば手動のガス消火設備などはこの緩和の対象とならない。
階段・昇降路・避難経路の区画免除
階段室・エレベータシャフト・エレベータの乗降ロビーについては、面積区画・高層面積区画が免除されることが、第1項第2号・第4項第2号(面積区画)および第8項(高層面積区画)で規定されている。
ただし、面積区画の免除については、これらの部分が1時間準耐火構造の床・壁と遮煙性能を有する特定防火設備で区画されている必要があり、高層区画については、これらの部分が耐火構造の床・壁と遮煙性能を有する特定防火設備(第5項に限り防火設備)で区画されている必要がある。
これらの区画については、別稿にて解説する竪穴区画と、その位置や範囲が重複するケースが多い。ただし、ここでは竪穴区画よりも高い耐火性能が仕様として求められていることに注意したい。
また、高層面積区画の部分ですでに解説したが、第8項の高層区画における区画免除については、「廊下その他避難の用に供する部分」、「床面積の合計が200㎡以内の共同住宅の住戸」も区画の対象とはならない。
用途による面積区画の免除
たとえば劇場や体育館、長大な生産ラインがある工場建屋など、面積区画により分割することが適当でない用途については、やむを得ない場合において、面積区画が免除される。具体的な用途の例については、第112条第1項第1号のほか、通達により例示されている。以下に整理するので参考にしていただきたい。
第112条第1項第1号
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の客席、体育館、工場その他これらに類する用途に供する建築物の部分
昭和44年3月3日 住指発第26号
倉庫及び荷さばき施設
昭和46年9月8日 住指発第623号
卸売市場の用に供する建築物の部分のうち、卸売場、仲買売場等の売場、買荷の保管又は積込等の荷捌場の用途に供する部分
昭和46年12月4日 住指発第905号
ボーリング場、屋内プール、屋内スポーツ練習場などの主たる用途に供する部分
上記は第1項のただし書きについての事例であるが、面積区画の第2項・第3項についても、第4項第1号で同様の条文により区画が免除されている。
ただし、第4項第1号の区画免除についてはさらに条件があり、天井(屋根)・壁の仕上げを準不燃材料としなければならない。さらに、通達第623号については第1項のただし書きのみについて補足したものであり、第4項第1号についてはふれていないので注意が必要である。
さらに注意すべき点として、上記はこれらの用途部分について区画が免除されているのであり、これらの用途が含まれる建築物のすべての部分が区画を免除されるわけではない。したがって、上記の用途とその他の用途部分の面積が規定面積をこえる場合、その他の用途部分には区画が必要となる。
また、これらはあくまでもやむを得ない場合であり、上記の用途であっても区画することが可能な計画である場合は区画が必要である。余談になるが、行政や審査機関によっては、確認申請にあわせて「防火区画免除願」などの書類の提出を求められることがある。
いわば一種の調書であり、計画における区画の可否についてもその内容で判断するという趣旨と理解される。いずれにしても事前確認を十分にしておきたい。
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最後に
面積区画については、その緩和規定を有効に活用したい。
ただし、特に高層面積区画については、他の法規定やその緩和規定に基づいた区画も同時に要求されている場合もあるため、他の条文も横断した視点での検討が重要である。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。