建物の随所に設置されている消火器は、誰しもが目にしたことのある、一般的な消火器具だろう。
これは自発的に設置されている場合も多いが、実は消防法第17条の規定にもとづき、防火対象物への設置がもとめられている、れっきとした消防用設備のひとつである。
しかしながら、その設置基準については、あまり意識されていないように思える。
えてして計画が固まった段階で行政の消防部署に事前協議に行き、そこで個数や設置場所を協議して(というより指示してもらって)、その通り設置する…といった程度ですましてはいないだろうか。
ここでは消火器の設置基準をもう一度おさらいし、あわせて緩和規定などを解説する。
消火器について
まずは、消火器とは何か、について確認しておきたい。消火器は、消防用設備のうち、消防法施行令第7条第2項第1号に規定さていれる消火設備のひとつである。
この条文では消火器のほかに、「簡易消火器具」として、水バケツや乾燥砂などが列記されており、消火器はこれら簡易消火器具とともに「消火器具」と規定されている。
つまり、消火器は水バケツと同等の扱いであるということがわかるだろう。すなわち、火災の最初期の段階で発見者自らが自主消火を行なうための、最も簡便な消火手段ということになる。
法文上の定義も確認すると、「消火器の技術上の規格を定める省令(以下、この稿では省令と省略)」第1条の2第1項第1号に、その定義として「水その他消火剤(以下「消火剤」という。)を圧力により放射して消火を行う器具で人が操作するもの(中略)をいう。」とある。
つまり設備ではなく器具であり、自動で作動するものではなく、人が操作して消火にあたることを想定している。
粉末消火器
消火器にはその消火剤により、いくつかの種類がある。消火器の種類と規格については、省令第1条の2第1項第4号の「水消火器」から、第10号の「粉末消火器」まで、7種類の消1火器が定義されている。
ただし、製造販売されている消火器のうち9割以上が第10号の粉末消火器である。また、その他6種類のうち半分はすでに生産されていない。
したがって、げんざい消火器として普及している消火器は、そのほとんどが粉末消火器を指すといって間違いはないだろう。なお、省令第9条には大型消火器の規定があり、粉末消火器の場合では20kg以上の消火剤を充てんしたものが大型消火器となる。
とうぜん消火器そのものはさらに重量があるため、一般的には専用の台車にのせた状態で設置される。ガソリンスタンドなどに設置されているものを見かけることもあるのではないだろうか。
ちなみに、粉末消火器以外に1割弱生産されているその他の消火器であるが、こちらも当然用途がないわけではない。たとえば省令第1条の2第1項第9号の二酸化炭素消火器は、一般的な粉末消火器とは異なり、消火剤による汚損がないのが特徴である。
したがって、美術館や博物館、不純物に弱い精密機械のある設備室などに設置することがある。二酸化炭素消火器は高圧ガス保安法の適用を受けるため、容器の半分が緑色に塗装されているので、設置されていれば気がつきやすいだろう。
消火器の能力単位
ここまで解説したように、消火器にはいくつかの種類がある。また、同種の消火器であっても、その容量に大小もある。とうぜん種別、容量によって消火上の能力も異なることとなる。それらをあらわす単位が、消火器の「能力単位」である。
これは消防法施行規則第6条第1項に規定され、その測定方法が省令で定められている。各メーカーは省令にもとづき、それぞれの消火器について能力単位を測定し、カタログ等、および消火器本体に記載している。
ちなみに、施行規則では8リットルの水バケツ三杯を1能力単位としている。ここで注意したいことは、火災の種類によって能力単位が異なるということである。
たとえば同量の水であっても、木材の火炎には有効であっても、油類の火炎には有効どころか逆効果となりうる。省令では通常の火災をA火災、油類等の火災をB火災とし、それぞれに対応した能力単位の測定方法を規定している。
したがって、消火器はA火災に対応した能力単位と、B火災に対応した能力単位の二種類の能力単位を持っている。たとえば、粉末消火器で10型と呼ばれる、一般的なサイズの消火器では、A火災の能力単位が3、B火災の能力単位が7程度となっているものが多い。
また、省令ではA火災、B火災とは別に、電気設備の火災として電気火災を規定しており(第38条第1項第6号)、これは通称C火災と呼ばれる。
なお、粉末消火器のことを一般にABC消火器と呼ぶこともあるが、これは粉末消火器がA火災、B火災、C火災のすべてに対応した消火器という意味である。C火災については能力単位はなく、対応しているか否かだけを表示する。
先ほどの10型粉末消火器の表示は、すなわち「A-3・B-7・C」と表示することになる。この能力単位は、後ほど解説する設置基準や緩和とも関係するので、しっかり押さえておきたい。
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消火器の設置が必要となる防火対象物
消火器を設置する防火対象物は、消防法施行令第10条第1項第1号~第5号に規定されている。まずは条文を以下に示す。
消防法施行令第10条(消火器具に関する基準)
消火器又は簡易消火用具(以下「消火器具」という。)は、次に掲げる防火対象物又はその部分に設置するものとする。
一 別表第一(1)項イ、(2)項、(6)項イ(1)から(3)まで及びロ、(16の2)項、(16の3)項、(17)項並びに(20)項に掲げる防火対象物
二 別表第一(1)項ロ、(3)項から(5)項まで、(6)項イ(4)、ハ及びニ、(9)項並びに(12)項から(14)項までに掲げる防火対象物で、延べ面積が150㎡以上のもの
三 別表第一(7)項、(8)項、(10)項、(11)項及び(15)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が300㎡以上のもの
四 前三号に掲げるもののほか、別表第一に掲げる建築物その他の工作物で、少量危険物(中略)又は指定可燃物(中略)を貯蔵し、又は取り扱うもの
五 前各号に掲げる防火対象物以外の別表第一に掲げる建築物の地階(中略)、無窓階(建築物の地上階のうち、総務省令で定める避難上又は消火活動上有効な開口部を有しない階をいう。以下同じ。)又は三階以上の階で、床面積が50㎡以上のもの
順序を整理し、簡単にまとめると以下の通りとなる。
○ 別表すべての建築物で、地階・無窓階・3階以上の階で床面積50㎡以上の階(第5号)
○ 右のすべて:劇場等、キャバレー・遊技場等、病院・特別養護老人ホーム等、地下街・準地下街等、文化財等、船舶・車両等のすべて(第1号)
○ 面積150㎡以上:集会場等、飲食・物販店等、ホテル・共同住宅等、診療所・老人デイサービスセンター・幼稚園等、公衆浴場等、工場・駐車場・倉庫等(第2号)
○ 面積300㎡以上:学校等、図書館・博物館等、車両・船舶の停車場・発着場等、寺院等、その他事務所等(第2号)
○ 別表すべての建築物、その他工作物で、危険物・可燃物の貯蔵・取扱場所すべて(第4号)
上記のまとめでわかるとおり、ほとんどすべての建築物に対して消火器の設置が必要となる。とはいえ、そもそも別表第一に含まれない専用住宅などには設置が求められない。
また、たとえば面積300㎡未満の小規模な事務所で、平屋または2階建てであり、かつ各階が無窓階でない場合なども、上記第10条に該当しないため、消火器の設置は必要ない。
なお、これは余談になるが、消防法施行令には用語の定義に相当する条文がない。必要な用語は初出の条文中で定義されており、実は無窓階という用語は、消火器の設置規定である令第10条第1項第5項が初出である。
無窓階の基準を確認するために条文をあたる際は、この第5項と、対応する省令である、施行規則第5条の2を参照することになるので、このことは覚えておくとよいだろう。
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消火器の設置基準
では次に、それぞれの防火対象物に、どれだけの消火器をどのように設置しなければならないのか、その設置基準について解説する。
消火器の設置基準については、消防法施行令第10条第2項に規定されている。簡単にまとめると、
第1号 用途・構造・規模と消火器の種類・能力に応じた設置
第2号 使用に際して容易に持ち出せるような設置
となり、それぞれの細目が消防法施行規則第6条~第9条に規定されている。以下、第2号の基準から先に解説する。
歩行距離による設置基準
施行令第10条第2項第2号の細目は、消防法施行規則第6条第6項に規定されている。第6項によると、消火器は原則として防火対象物の各部分からの歩行距離が20m以下となるように配置しなければならない。
ここで注意すべきは、配置の基準が歩行距離であって、直線距離ではないという点である。したがって、計画の内容によってはかなり密に配置する必要がある。
また、つぎに解説するが、危険物・可燃物や、電気設備のある場所については追加の消火器を設置する必要がある。この追加の消火器については、危険物・可燃物、電気設備からの歩行距離が20m以下の場所に設置しなければならない。
能力単位による設置基準
消火器は、前項の歩行距離による設置基準にもとづいて配置したうえで、設置した消火器の能力単位の合計が既定の数値を満足する必要がある。
ここでいう既定の数値は、施行規則第6条第1項~第5項に規定されているが、基本的には各防火対象物の床面積を単位となる床面積で割った数値(小数点以下は切り上げ)である。第1項を簡単にまとめると、以下の通りとなる。
○ 単位面積50㎡:別表第一(1)項イ、(2)項、(16の2)項、(16の3)項、(17)項
○ 単位面積100㎡:別表第一(1)項ロ、(3)~(6)項まで、(9)項、(12)~(14)項
○ 単位面積200㎡:別表第一(7)項、(8)項、(10)項、(11)項、(15)項
先に解説した、施行令第10条における消火器の設置が必要となる防火対象物の分類とは一部異なることに注意が必要である。
なお、上記の単位面積については、主要構造部を耐火構造とし、壁・天井の仕上げを難燃材料とした場合には、それぞれ二倍の面積に換算できることが施行規則第6条第2項に規定されている。
また、上記の単位床面積による設置基準に加えて、危険物・可燃物の貯蔵・取扱場所、変圧器・配電盤等の電気設備のある場所、ボイラー等多量の火気使用場所については、追加の設置基準が施行規則第6条第3項~第5項に規定されている。
簡単にまとめると、以下の通りとなる。
配置の手順
配置の手順としては、まず歩行距離20mの基準にもとづき設置個所・個数を決定し、設置する消火器の規格(10型など)から能力単位の合計を求める。
その合計値が上記で解説した、施行規則第6条第1項~第5項の基準による数値を満足していれば配置は完了である。もし足りないようであれば、消火器をさらに密に配置して個数を増やすか、消火器の規格を大型のものに変更して、能力単位を増やさなくてはならない。
逆に、歩行距離にもとづいた配置で、能力単位の合計値が過大であるようならば、消火器を規格を小型のものに見直すという方法もあるだろう。
また、設置に際しては、施行規則第9条において、設置する床面からの高さが1.5m以下となるよう設置すること、標識を設置することなどの細目が規定されている。
大型消火器の設置
ここまでは、通常の消火器の設置について解説したが、可燃物を大量に貯蔵・取り扱う場合は、大型消火器の設置義務が施行規則第7条において規定されている。
具体的には、「危険物の規制に関する政令」に規定されている指定可燃物を、指定数量の500倍以上貯蔵・取り扱う場合には、大型消火器の設置が必要となる。
配置の基準は、指定可燃物の貯蔵・取扱場所の各部分からの歩行距離が30m以下となるように設けなければならない。
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消火器の設置に関する緩和
消火器の設置における緩和規定については、消防法施行令第10条第3項に規定されている。また細目が消防法施行規則第8条などに規定されている。
具体的には、代替となる大型消火器や、一定の消火設備を設置した場合に、満足すべき能力単位を減免するという二種類の緩和が規定されている。まとめると以下の通りである。
○ 能力単位を1/2に減免:大型消火器の設置(規則第7条第2項)
○ 能力単位を2/3に減免:スプリンクラー・水噴霧・泡・不活性ガス・ハロゲン化物・粉末の各消火設備の設置(規則第8条第1項・第2項)
ここで注意すべきは、代替となる大型消火器・消火設備であること、という点である。施行規則では「適応性が同一」という表現を用いているが、消火器で対応すべき火災(A火災、B火災、C火災)に対して、設置された大型消火器や消火設備が同様に有効であるということが条件となる。
また、消火設備による能力単位の減免については、11階以上の階では適用されないので注意が必要だ。いっぽう、代替となる消火設備を設置した場合、能力単位の減免にくわえ、施行規則第7条による大型消火器の設置義務が免除される(規則第8条第3項)。この緩和は階数に関係なく適用される。
緩和について注意すべき点として、最後に触れた大型消火器の設置義務免除をのぞき、緩和はすべて能力単位の減免であり、歩行距離による配置については緩和がないという点である。
したがって、能力単位の減免に応じて消火器の配置を間引きし、歩行距離が20m以上となるような配置は認められない。配置の手順で解説したような、歩行距離にもとづいて配置した結果、能力単位の合計値が過大であるような場合にこれらの緩和が適用できることに注意したい。
また、能力単位による設置基準の段でもふれたが、施行規則第6条第2項の規定、すなわち単位面積による能力単位の算出にあたり、主要構造部を耐火構造とし、壁・天井の仕上げを難燃材料とした場合には、単位面積をそれぞれ二倍の面積に換算する規定についても、緩和と考えることができるだろう。
最後に
消火器はもっとも一般的な消防用設備であり、ほとんどすべての防火対象物への設置が求められている。また、歩行距離による配置が必要であることから、えてして漫然と設置してしまいがちである。
しかしながら、消火器の設置が必要となる防火対象物の段で解説したように、設置が不要な用途や規模の規定もあり、緩和規定もさだめられている。計画にあたってはこれらの規定を有効に活用できるよう、条件の確認を十分に行ないたい。
なお、消防用設備の設置においては、各行政が定める火災予防条例などの独自の基準を定めていることが多い。これは法第17条第2項において、地方の気候や風土の特殊性を考慮して、施行令とは異なる基準を定めることを認めていることによる。
ここまで解説してきた内容はすべて法及び施行令の範囲内での基準であり、各行政の独自基準は含まれていない。したがって、上記の内容だけでは各行政の独自基準は満足できないこともあることには注意していただきたい。
計画にあたっては、事前の調査と、所轄行政との十分な事前協議が必要である。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。