あまり一般の人にはなじみがないかもしれないが、建築基準法において高層の建築物においては、火災時の消防隊の活動を円滑に行うため、非常用エレベーターの設置が義務付けられている。
ここでは、非常用エレベーターの概要を説明すると共に、設置においては規定が多く重要となる乗降ロビーについて詳しく解説していきたい。
非常用エレベーターの設置基準
まず法文を通して非常用エレベーターの設置基準について解説をしていきたい。
まず、設置の大原則となる部分の法文について紹介する。
<建築基準法第34条 >
- 建築物に設ける昇降機は、安全な構造で、かつ、その昇降路の周壁及び開口部は、防火上支障がない構造でなければならない。
- 高さ三十一メートルをこえる建築物(政令で定めるものを除く。)には、非常用の昇降機を設けなければならない。
高さ31mを超える建築物については、非常用のエレベーターを設けることと、法34条2項で定められている。
続いて、高さ31mを超えても設置を要しない建築物の法文について紹介する。
<建築基準法施行令第129条の13の2 >
法34条2項 の規定により政令で定める建築物は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 高さ三十一メートルを超える部分を階段室、昇降機その他の建築設備の機械室、装飾塔、物見塔、屋窓その他これらに類する用途に供する建築物
二 高さ三十一メートルを超える部分の各階の床面積の合計が五百平方メートル以下の建築物
三 高さ三十一メートルを超える部分の階数が四以下の主要構造部を耐火構造とした建築物で、当該部分が床面積の合計百平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備でその構造が第百十二条第十四項第一号イ、ロ及びニに掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの(廊下に面する窓で開口面積が一平方メートル以内のものに設けられる法第2条第九号の二 ロに規定する防火設備を含む。)で区画されているもの
四 高さ三十一メートルを超える部分を機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供する建築物で主要構造部が不燃材料で造られたものその他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造のもの
その他、下記項目についてそれぞれに示す法文で定められている。
①必要台数<施行令129条の13の3 2項>
②乗降ロビー<施行令129条の13の3 3項>
③昇降路<施行令129条の13の3 4項>
④屋外出口までの距離<施行令129条の13の3 5項>
⑤その他<施行令129条の13の3 6項~13項>
今回の記事においては、非常用エレベーターの詳細規定までを紹介することを趣旨としていないので割愛するが、ここに法文を列挙するだけでも多岐にわたり法文が構成されていることがお分かりになるかと思う。
非常用エレベーターを計画していく際には、法文を熟読した上で計画を進めていく必要があることは言うまでもない。
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乗降ロビーについて知っておかなければならないこと
乗降ロビーとは、いわゆる一般用エレベーターにおける待合いスペースの事であり、非常時においてこのロビーが危険状態になることは、非常用エレベーターからの救助においても危険状態になることを意味する。乗降ロビーについては、非常用エレベーター自体と共に多数の規定が定められており、
よく理解をしておかなければならない。
乗降ロビーについての法文は、建築基準法施行令129条の13の3 3項において定められている。法文の量も多いのでここで紹介をしながら解説をしていきたい。
<建築基準法施行令129条の13の3 3項>
乗降ロビーは、次に定める構造としなければならない。
一 各階(屋内と連絡する乗降ロビーを設けることが構造上著しく困難である階で次のイからホまでのいずれかに該当するもの及び避難階を除く。)において屋内と連絡すること。
イ 当該階及びその直上階(当該階が、地階である場合にあつては当該階及びその直下階、最上階又は地階の最下階である場合にあつては当該階)が次の(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、当該階の直下階(当該階が地階である場合にあつては、その直上階)において乗降ロビーが設けられている階
(1) 階段室、昇降機その他の建築設備の機械室その他これらに類する用途に供する階
(2) その主要構造部が不燃材料で造られた建築物その他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造の建築物の階で、機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供する
ロ 当該階以上の階の床面積の合計が五百平方メートル以下の階
ハ 避難階の直上階又は直下階
ニ その主要構造部が不燃材料で造られた建築物の地階(他の非常用エレベーターの乗降ロビーが設けられているものに限る。)で居室を有しないもの
ホ 当該階の床面積に応じ、次の表に定める数の他の非常用エレベーターの乗降ロビーが屋内と連絡している階
当該階の床面積 | 当該階で乗降ロビーが屋内と連絡している他の非常用エレベーターの数 | |
(一) | 千五百平方メートル以下の場合 | 一 |
(二) | 千五百平方メートルを超える場合 | 三千平方メートル以内を増すごとに(一)の数に一を加えた数 |
以下に解説を加える。
■原則として、乗降ロビーは各階において屋内とつながっている必要があるとしている。
■やむおえない状況において、乗降ロビーをもうけないことを認めている。やむおえない状況は、具体的に定められてはいない、よってまずは設けるということを前提に考えるべきである。
<法文の続き>
二 バルコニーを設けること。
以下に解説を記す。
乗降ロビーには、バルコニーを設ける必要があるとの表記である。非常用エレベーターを必要とするのは、ハシゴ車の届かない、31mを超える建物であるが、バルコニーは消火活動や避難活動において有効に働くことはいうまでもない。
また、関連して外気に向かって開くことができる窓を設けるか、排煙設備を設けることとしており、詳しくは、昭和45年建設省告示1833号において定められている。
<法文の続き>
三 出入口(特別避難階段の階段室に通ずる出入口及び昇降路の出入口を除く。)には、第百二十三条第一項第六号に規定する構造の特定防火設備を設けること。
以下に解説を記す。
乗降ロビーへの出入り口は特定防火設備にて区画することが定められている。但し書きにおいてかかれているが、昇降路の出入り口及び特別避難階段への出入り口は除外するとなっている。これは、昇降路については縦穴区画が形成されることから、遮煙機能付の防火設備が要求される点、特別避難階段の階段室とは防火設備区画が要求される点より除外規定となっている。
<法文の続き>
四 窓若しくは排煙設備又は出入口を除き、耐火構造の床及び壁で囲むこと。
以下に解説を記す。
床及び壁は、耐火構造とすることが要求されている。窓と排煙設備、出入り口の戸については、耐火構造の定義に入れることができないので、除外されている。非常用エレベーターを必要とされる建物は、当然高層であり、鉄筋コンクリート造等が考えられる。
耐火構造を作る構造としては、コンクリートで作るなどが考えられるが、プラン上の問題などから、いわゆる乾式工法で作る場合なども考えられる。
乾式工法とは、軽鉄lgsに石膏ボードなどを施す訳であるが、耐火構造を満たす方法として、例示仕様(告示に示される仕様)、又はメーカー等が取得している認定工法などが考えられる。注意しておきたいのは、いわゆる乾式工法により行政が問題なく認めてくれるのかは確認しておきたい。
<法文の続き>
五 天井及び壁の室内に面する部分は、仕上げを不燃材料でし、かつ、その下地を不燃材料で造ること。
以下に解説を記す。
仕上げ等についての規定である。内装制限と同じく、天井と壁についての規定である。床については規定されていないので、しっかり押さえておきたい。
<法文の続き>
六 予備電源を有する照明設備を設けること。
以下に解説を記す。
非常時においても点灯可能な照明を有することとしている。
注意したいのは、非常照明を設置すると書いている訳ではなく、予備電源を有する通常照明を有すると書いている。予備電源とは、蓄電池や自家用発電機等を差し、建物が停電になった場合においても、照明に対して一定の電力供給がなされることを意味している。
<法文の続き>
七 床面積は、非常用エレベーター一基について十平方メートル以上とすること
八 屋内消火栓、連結送水管の放水口、非常コンセント設備等の消火設備を設置できるものとすること。
九 乗降ロビーには、見やすい方法で、積載量及び最大定員のほか、非常用エレベーターである旨、避難階における避難経路その他避難上必要な事項を明示した標識を掲示し、かつ、非常の用に供している場合においてその旨を明示することができる表示灯その他これに類するものを設けること。
以下に解説を記す
・7では、乗降ロビーに必要な最低床面積基準を示している。
・8では、屋内消火栓などをはじめとした消防設備を設置できるスペースを有することを示している。
上記では、建築基準法施工令について示してきたが、各自治会により独自の基準を定めている場合もあるので注意されたい。ここでは、例として福岡市の規定について紹介する。
<福岡市消防局規定 第7 非常用エレベーターより抜粋>
4 乗降ロビー
乗降ロビーは,建基令第 129 条の 13 の3第3項の規定によるほか,次によること。 (1) 非常用エレベーターの乗降ロビーと特別避難階段の附室を兼用する場合の必要
床面積は,非常用エレベーターの乗降ロビーの必要床面積(1基について 10 m²)と 特別避難階段の附室(概ね5m²)との合算とし,建基令第 123 条第3項第 11 号の規 定にも適合しなければならい
(2) 乗降ロビーの出入口に設ける特定防火設備の開閉方向については,前(1)の場合 を除き,消防隊が活動しやすい方向(外開き)とすることが望ましい。
(3) 乗降ロビーは,避難経路となる廊下と兼ねないものであること。
(4) 予備電源を有する照明設備は,昭和45.12.28建設省告示第1830号「非常用の
照明装置の構造方法を定める件」に準じて設けること。
(5) 乗降ロビーの形態は,できるだけ正方形(最短辺で 2.5m以上)に近い形で消防
活動上有効なものであること。
(6) 乗降ロビーは,避難階にも設置すること。ただし,昇降路の出入口に通ずる部分
が屋外からの進入が容易な場所であり,他の部分と消防活動上有効に区画されている場合はこの限りではない。
(7) 非常用エレベーターと一般用エレベーターの乗降ロビーとの兼用については,建
物の総合的な防災計画により兼用の可否を判断すること。なお,やむを得ず兼用する場合は,非常時には区画できる構造とすること。
(8) 非常用エレベーターの乗降ロビーは,廊下及び特別避難階段以外の部分に直接通じていないこと。また,消火設備以外のPS,EPS及びDS等の点検口を設けな
いこと。
(9) 各階の非常用エレベーターの乗降ロビーには,当該階に消防活動上有効な平面図を掲示すること。
(10) 防火区画に用いる特定防火設備のシートシャッターは,原則認めないものであること。
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最後に
いかがであったであろうか、非常用エレベーターを設置する際には、様々規定されている条件をクリアしなくてはいけないことが理解いただけたかと思う。特に昇降路についで、メインとなる乗降ロビーにおける規定を理解いただけたかと思う。
この規定をざっと読んでいただいただけでもお分かりいただけたかと思うが、必要とするものは計画におけるスペースをどれも必要とするものであり、いわゆる事業に必要な床面積等を圧迫する要因となるものである。
だが、法令で定められている以上設置をすることは避けられない。必要であることが明確であるならば、非常用エレベーターが占めるであろう面積を施主に提示し、合意をしっかりとはかっておくべきであろう。
また、非常用エレベーターを設置するか、しないかの建物高さで計画調整している場合は、非常用エレベーターを設置した場合のコストなどについてもしっかり把握し、どちらが有益であるかを判断して行きたい。
どちらにしろ、知識をしっかり持ち、計画に反映していけたらと思う。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。