斜線制限は建築基準法において定められる形態規制の一つであり、道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限と分けることができる。
それぞれの斜線制限においては周囲に対して空地を有することで、通風や採光などに対するゆとりを産むものとして規制を施している。
都市部などにおいては斜線制限ギリギリに建物を建てるなどが当たり前の状況であり、斜線制限の規制内容を把握していなければ、法的な基準はクリアしていても、事業者にとっての不利益をもたらすことになるかもしれない。
3つの規制の中でも、隣地斜線制限は、用途地域と、建物規模によっては容易に検討から除外できるものとなり、検討を見落とすなどの状況にも注意しなければならない。
ここでは改めて隣地斜線制限の基礎から確認し、より最適な設計ができるような知見を身につけていただきたい。
隣地斜線制限制定の背景
かつては、住居系の用途地域内においては、建築物の絶対的な高さを20m以下と制限し、その他の地域内においては、高さを31m以下と制限していたが、昭和45年の建築基準法改正により、絶対的な高さ制限が廃止される。絶対的な高さとは「この高さまで建てることが出来る絶対条件」という意味である。
昭和45年以降の改正後は、制限を超えて建てられる建築物の部分については、隣地境界線からの斜線制限により建築物の高さを規制し、市街地内の通風・採光等に配慮されている。ただし、第一種・第二種低層住居専用地域では今も絶対高さ制限が存在し、隣地斜線制限の適用はない。
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隣地斜線制限の法的規制
まずは建築基準法に定められる条文を確認しておきたい。
建築基準法56条1項2号
当該部分から隣地境界線までの水平距離に、次に掲げる区分に従い、イ若しくはニに定める数値が一.二五とされている建築物で高さが二十メートルを超える部分を有するもの又はイからニまでに定める数値が二.五とされている建築物(ロ及びハに掲げる建築物で、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内にあるものを除く。以下この号及び第七項第二号において同じ。)で高さが三十一メートルを超える部分を有するものにあっては、それぞれその部分から隣地境界線までの水平距離のうち最小のものに相当する距離を加えたものに、イからニまでに定める数値を乗じて得たものに、イ又はニに定める数値が一.二五とされている建築物にあっては二十メートルを、イからニまでに定める数値が二.五とされている建築物にあっては三十一メートルを加えたもの
イ 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物又は第一種住居地域、第二種住居地域若しくは準住居地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。)
一.二五(第五十二条第一項第二号の規定により容積率の限度が十分の三十以下とされている第一種中高層住居専用地域及び第二種中高層住居専用地域以外の地域のうち、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内の建築物にあっては、二.五)
ロ 近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。)又は商業地域、工業地域若しくは工業専用地域内の建築物
二.五
ハ 高層住居誘導地区内の建築物であって、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であるもの
二.五
ニ 用途地域の指定のない区域内の建築物
一.二五又は二.五のうち、特定行政庁が土地利用の状況等を考慮し当該区域を区分して都道府県都市計画審議会の議を経て定めるもの
まとめると、
隣地境界線上から一定の高さを基準とし、そこから一定の勾配で示された斜線の内側が、建築物を建てられる高さの上限となる。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域を除く住居系地域では、隣地境界線上20メートルの高さから、1メートルにつき1.25メートル、商業系、工業系地域では、隣地境界線上31メートルの高さから、1メートルにつき2.5メートル上がる斜線の内側に建築物を納めなければならない。
隣地斜線制限の緩和規定
隣地斜線にも、道路斜線や北側斜線と同様に緩和規定が存在するので確認をしておきたい。
・敷地が公園、広場、水面などに接する場合
敷地が公園、広場、水面(河川等)などに接する場合、これらに接する隣地境界線はその公園等の幅の1/2だけ外側にあるものとみなすことができる。(令135条3項1号)
注)公園とは一般的にいう街区公園(児童公園)は除く。(都市計画法施行令2条1項1号に規定する都市公園)
隣地斜線の本来の目的は、隣にある敷地に対して通風や採光等の環境を阻害しない為のものである。水面、公園、広場等がある場合には、その状況がある程度確保されているとの解釈であると考えることができる。計画をして行く際には、法に触れないから良いという考えではなく規定の背景などにも注意すると、より良い計画が組めるのではないだろうか。
・敷地の地盤面が隣地の地盤より1m以上低い場合
敷地の地盤面が隣地の地盤より1m以上低い場合、その敷地の地盤面はその高低差より1mを減じた値の1/2だけ高い位置にあるものとみなすことができる。(令135条3項2号)
隣地斜線は、地盤面より高い建物が隣の敷地へ影響を及ぼすものである。
計画敷地が隣地敷地より低くなっていれば、当然相手に対して与える影響は小さくなるはずであり、その点を考慮した規定である。
・計画道路が敷地に接する時
計画道路又は予定道路を前面道路とみなす場合、計画道路又は予定道路内の隣地境界線は無いものとみなせる。(令135条3項3号)
・計画建築物が隣地境界線より後退している場合
この規定は、道路斜線制限等のセットバック規定と同様であり、セットバックした距離分だけ、隣地境界線より後退しても良いという規定である。
隣地斜線の場合は道路斜線の場合と違い、規定が20m以上からかかる地域であれば、そこから下がれば良いので考え方によっては、有利な考え方もできるであろう。
*第1種中高層住居専用地域・第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域・第2種住居地域、準住居地域の建築物で高さが20mを超える部分を有するものである。
*近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域及び用途地域の指定のない区域の建築物で高さ31mを越える部分を有するものである。
・斜線勾配が指定されている場合
前述して述べたように、「用途地域」によって斜線勾配は指定されているが、場所によっては、その場所での斜線勾配が指定されていることもあるので注意が必要である。
建築計画の際に、インターネット等で基本的な規制内容等は調べることができるが、正確な情報を得るという意味では、やはり役所に赴き担当者と確認しあった方が正確だろう。
都心部における民間事業者などは、その土地における最大化を目指して事業を行おうとしている場合が多く、事業の成功の為には正確な情報把握はかかすことができない。
もし仮に競合他社と競り合っている時に間違った情報を仕入れているようであれば、その競合には負けたも同然であろう。基本に忠実それが何よりも基本であろう。
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検討方法
ここでは、隣地斜線制限の具体的な検討方法について記載していく。
①計画敷地における隣地境界線の位置を確認する。
隣地境界線が北側にある場合でも、北側斜線と隣地斜線は同時にかかる。見かけ上、道路に見えていたとしても、建築基準法上の道路扱いになっていなければ、道路境界線ではなく、隣地境界線となるので注意を要する。
②計画敷地の用途地域を確認する
・第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域ではかからない。
・上記以外の住居系地域であれば、隣地境界線上から20mの立上後、1.25勾配が制限となる。
・商業系、工業系地域であれば、隣地境界線上から31mの立上後、2.5勾配が制限となる。
③隣地が公園、広場、水面等に該当しないかの確認
④敷地の地盤面が、隣地の地盤面よないかを確認り1m以上低く。
⑤計画建物がセットバックしている場合はセットバック緩和を使える事を考慮する
⑥上記をすべて加味した中で、隣地斜線制限内全て建物が納まっているかを確認する。
ここで、シビアな計画をしていると屋上の手摺などは、高さ制限をカウントする際に含まれるものとなるのか?などの疑問が出てくる。法的には、細かい規定はされていないが、それぞれの行政が規定を設けていることもあるので確認をしていただきたい。
ここでは、東京都新宿区により、規定が定められていたので紹介する。
【高さ制限等の屋上・バルコニーのパイプ手すりの取扱い】
高さ制限における、屋上及びルーフバルコニーの開放性のあるパイプ手すりについて取り扱うものとする。開放性がなく、通風がとれないものは、透過性のある面材であっても建築物の高さに算入する。ただし、安全性の観点から横格子は認めない。
・屋上・ルーフバルコニーのパイプ手すり
「屋上及びルーフバルコニーのパイプ手すり」は、令2条1項六号ハに規定する『棟飾り、防火壁の屋上突出部その他これらに類する屋上突出物』とみなして、高さ制限(絶対高さ制限〔法第55条〕斜線制限〔法第56条〕、高度地区〔法第58条〕)の適用においては、当該建築物の高さに算入しない。
・はね出しのバルコニー及び屋外廊下のパイプ手すり
はね出しのバルコニー及び屋外廊下に設けるパイプ手すりについては、建築物の部分であり、高さ制限の対象となるものであるが、絶対高さ制限、道路斜線制限及び隣地斜線制限の適用においては法の趣旨等に鑑み、高さの制限を緩和するものとする。ただし、高度斜線制限の規定は従来と同様に建築物の部分として扱い、高さの制限の対象とする。屋外階段のパイプ手すりについては、令第2条第1項第六号ハに該当しないものはパイプ手すりであっても全ての高さ制限の対象とする。
・その他 (A)隣地斜線制限の後退緩和の距離について
図のような場合における「隣地斜線制限の後退緩和の距離」については、はねだしのバルコニーのパイプ手すりまでの距離(A)とする。
この規定は自治体によって細則として定められているものであるが、バルコニー等のパイプ手摺などについては、隣地斜線等の高さには算入しないとの見解である。高さをシビアに検討していくとこのような壁に必ずぶつかるものだ。
この主旨は、隣地斜線制限などの高さ制限が、通風や採光を確保することを目的につくられている為、パイプ手摺などであれば、その条件を阻害しないとの考えであろう。
計画に余裕がある場合などは、意識をする必要はあまりないが、都心部などの計画においては高さをもう少しあげたい、階数をもう一層増やしたいなど、本当にギリギリの計画をすることなどは多々あるものだ。
地方などではわざわざこのような細則を作る必要も無いわけであるが、新宿区のような都心部地域では、計画を左右する考え方として設けられているのだろう。
実務では、このような細則があるかもしれないということを、念頭においておくことが重要である。調査に怠りなく計画は緻密になるだろう。
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隣地斜線制限を検討する上で知っておくべきこと
隣地斜線がどのようなものであるかを知っている方は多いと思うが、検討をする中で覚えおくべき要点を解説する。
①第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域には隣地斜線はかからない
第1種低層住居専用地域、第2種住居専用地域は絶対高さ制限が存在するので、隣地斜線はかからない。無視して良いということである。
②住居系の用途地域は、20mから、商業系の用途地域は31mから制限開始。以下であれば、制限はかからない。無視して良いということである。
③後退緩和があるのは、住居系用途地域なら20mより上、商業系用途地域なら31mより上、低いところから下がる必要はない。
④天空率を満たしていれば、隣地斜線は緩和される。
天空率の緩和については、頭の片隅には必ずおいておきたいものである。道路斜線、北側斜線、隣地斜線それぞれにおいて緩和が可能であるが、敷地に余裕がある場合などは、十分に有効に働く場合が多い。
天空率の検討は多少の労力を要するものであるが、敷地の両脇に空地をもうけることができる場合などは、クリアできる場合が多い。詳細な検討はさておき、有効的に敷地を使える可能性があるなど施主には言及可能であろう。
最後に
隣地斜線制限は、ある程度の階層が重ならない限り、検討からも除外される。斜線制限の中では一番緩い制限と捉えられるかもしれない。
計画当初から階数が低かったり、用途地域が除外範囲などであれば問題はないかもしれないが、計画を練っている中で階層を検討したりしていると、制限がかかる高さに到達している等の状況に陥る可能性がある。その時に、頭の中から抜け落ちてしまうなども考えられる為、十分に注意しながら検討をしていく必要がある。
思わぬ所で再検討を余儀なくされ、計画が出戻りになる場合も考えられる為、注意したい。
「北側斜線」「道路斜線」「隣地斜線」「日影規制」と斜線制限は建築基準法の中で様々に規定をされているが、どれも常に頭の中で法基準を満たしているのかを注意しておく必要がある。
斜線制限は、どのような地域においても必ずかかるものであるが、郊外や田舎の地域であると土地の設定が広くなることなどから、ついつい意識をしなくなる可能性がある。
急に都心部の設計をやることになるなどという時に、意識しないまま設計を進めてしまい、不適合な設計をする可能性もゼロではないのでよくよく注意して計画を進めていくべきであろう。
この記事がその年手助けになれば幸いである。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。