屋内消火栓設備とは、消防法施行令第11条に定められている消防設備の一種である。消火活動における初期消火を行う設備で、人が操作する設備である。
初期消火を目的としている為、そこにい合わせた人が、消火にあたる為の設備であり、操作のしやすいものもある。
屋内消火栓の条文構成
屋内消火栓は消防法施行令11条において基準が定められており、規則12条において細則が定められている。
屋内消火栓について、以下に条文の項目と、規定される内容について整理する。
消防法施行令第11条
第1項 設置対象物
第2項 準耐火建築物及び耐火建築物による面積緩和
以下、順に解説を加える。
まず第1項であるが、対象となる建物を令別表第一により定めている、具体的な対象を以下に示す。
①述べ面積が500m2以上
別表第一(一)項に掲げる防火対象物
②述べ面積が700m2以上
別表第一(二)項から(十)項まで、(十二)項及び(十四)項に掲げる防火対象物
③述べ面積が1000m2以上
別表第一(十一)項及び(十五)項に掲げる防火対象物
④述べ面積が1500m2以上
別表第一(十六の二)項に掲げる防火対象物
⑤前各号に掲げるもののほか、別表第一に掲げる建築物その他の工作物で、指定可燃物(可燃性液体類に係るものを除く。)を危険物の規制に関する政令 別表第四で定める数量の750倍以上貯蔵し、又は取り扱うもの
⑥地階、無窓階又は四階以上の階で、床面積が100m2以上
同表(一)項に掲げる防火対象物
⑦地階、無窓階又は四階以上の階で、床面積が150m2以上
同表(二)項から(十)項まで、(十二)項及び(十四)項に掲げる防火対象物
⑧地階、無窓階又は四階以上の階で、床面積が200m2以上
同表(十一)項及び(十五)項に掲げる防火対象物
以下に解説を記す
上記に示されている防火対象物が何を示しているかを要約すると、下記の3つにまとめられる。
①防火対象物の述べ床面積が指定面積を超える場合
②地階・無窓階・4階以上の階を有する場合で床面積が指定面積を超える場合
③指定可燃物を指定数量以上貯蔵又は取り扱う場合い。
注意したいのは面積の考えかたである。
例えば、地下1階地上4階の建物があったとする。地下1階の床面積が指定面積を超えていたとすると、地下1階に設置義務が生じる。同じく地上4階の床面積が指定面積を超えていた場合には、地上4階に設置義務が生じる。
この状態では地上1階から地上3階については、設置義務が生じないが、地下1階から地上4階の延床面積が指定面積を超えた場合にはそれぞれの階に設置義務が生じる。忘れてならないのは、無窓階についてである。
無窓階については、地階と4階は同じ条件であるので、1階から3階部分について無窓階が存在しないかを留意する必要がある。無窓階が存在するれば、その階には設置義務が生じる。
次に第2項では、第1項で示された面積の倍読みを規定している。①建築物の構造が準耐火構造の場合に2倍②建築物の構造が耐火建築物の場合には3倍となると示している。
これらはすなわち、設置基準となる床面積もしくは延床面積が2倍、3倍となることであり、設置を必要とする面積が大きくなるので、緩和規定であると捉えることができる。
消防法施行令第11条
第3項では、技術上の基準について定められている。以下に条文の項目と、規定される内容について整理する。
一号 主要な防火対象物についての基準
二号 1号において示されない防火対象物についての基準
以下に解説を加える
1号で示す主要な防火対象物とは以下の内容である。
①延床面積700m2以上のもので、
別表第一(二)項から(十)項まで、(十二)項及び(十四)項に掲げる防火対象物
② ①に掲げる防火対象物以外で,地階、無窓階又は四階以上の階
a 床面積100m2以上
別表第一(一)項
b 床面積150m2以上
表(二)項から(十)項まで、(十二)項及び(十四)
c 床面積200m2以上
同表(十一)項及び(十五)項に掲げる防火対象物
③該当部分で以下の防火対象物
表第一(十二)項イ又は(十四)項
④ ①-③の他下記に該当するもの
別表第一に掲げる建築物その他の工作物で、指定可燃物(可燃性液体類に係るものを除く。)を危険物の規制に関する政令別表第四で定める数量の750倍以上貯蔵し、又は取り扱うもの
上記に該当する防火対象物においては、俗に言う「1号消火栓」を設けるようにとしている。
次に2号で示す、防火対象物とは以下の通りである。
・1項各号に掲げる防火対象物又はその部分で、1号に掲げるもの以外のもの
上記に該当する防火対象物においては、俗に言う「2号消火栓」又は「1号消火栓」を設けるようにとしている。
消防法施工規則第12条
令11条に示されない細則が示されている。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
屋内消火栓の種類
屋内消火栓は、「1号消火栓」「2号消火栓」「易操作1号消火栓」に分類することができる。
各々の特徴を以下に記す。
まず具体的な能力を示す前に、選定をする際の判断基準となる点について述べておく。屋内消火栓の大きな特徴は、「操作性」と「消火能力」に分類される。
各々の消火栓を順位づけると以下のようになる。
操作性:易操作1号消火栓=2号消火栓>1号消火栓
消火能力:1号消火栓=易操作1号消火栓>2号消火栓
①1号消火栓
・放水性能が高く、短時間に大量の放水が可能な消火栓設備で、水圧も高く、広範囲の消火活動が可能となっている。消防規定では、水平距離25mを消火活動範囲としている。
しかし、現実的操作一人で行うことは難しく2人で操作することになる。
②2号消火栓
・放水性能は1号よりもおとり、範囲も狭くなる。1人で操作を行うことも可能である
防規定では、水平距離15mを消火活動範囲としている。
③簡易操作性1号消火栓
放水性能が高く、短時間に大量の放水が可能な消火栓設備で、水圧も高く、広範囲の消火活動が可能となっている。 1人で操作を行うことも可能である。消防規定では、水平距離25mを消火活動範囲としている。
屋内消火栓の消火活動範囲は水平距離
消防法における距離というと「歩行距離」という概念が出てくることがあるが、屋内消火栓における距離は水平距離であるので注意を要する。
設計段階では、半径25mもしくは15mの範囲を建物全体が包含できるようにすることがポイントである。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
計画上の注意点
屋内消火栓を設置する必要がある建物である場合にはおける計画の流れと注意点を以下に説明する。
①まず、法令基準によりどの階に設置する必要があるのかを明確にする
屋内消火栓の設置有無はいわゆる本来の目的エリアの面積縮小になりかねない計画を強いられる場合があるので、準耐火構造や耐火構造にすることができないかなどの点を頭にいれ、面積について十分に注意をしておく必要がある。
②1号消火栓のみをでしか満たせないのか、2号消火栓も使用できるのかを明確にする。
1号消火栓と2号消火栓では設置コストは当然のように違う、2号消火栓を細かく配置することは
コストの増大になりかねないのでよくよく検討する必要がある。
③平面上にそれぞれの指定半径距離で建物全体を包含できるように配置する。
配置のポイントは、主に廊下やホールなどの共用部分に配置をすることである。専用部分に配置してしまうと、有事に使用できないということになりかねないので、注意を要する。
また、屋内消火栓は「水平距離」の包含で法令上は満足するが、所轄消防によっては歩行距離がながすぎる場合などに、距離を短くするように制限を設けているところもあるので、注意をようする。
また、屋内消火栓を使用するときには当然消火活動をするために、機器を取り出したりなどの動作を行う必要がある。消火栓自体を有効な空間に面するようにすることは当然のことで必要だが、施設を運用開始されてから前にむやみに物を置かれてしまうような空間に配置することも考慮した配置計画が望ましいものである。
④屋内消火栓を機能させるには、消火栓本体の他に、消火栓ポンプ、水槽、補助水槽が必要になるので、その配置を忘れずに行う。セオリーとしては、消火栓ポンプは専用室等をつくりその中に配置する計画で1階や地下などに配置されるパターンが多いだろう。
水槽は地中内に埋め込むなどの方針が多いだろう。補助水槽は屋上階に既成品を設置するなどのパターンが多い。この付属設備の配置は、計画初期段階から加味して計画をしておかないと計画の変更を余儀なくされることにつながりかねないので注意を要する。
⑤最後に加味しておかなくてはならないのは、維持管理である。施主に対しての説明はしっかりとおこなっておきたい。法令で消防設備点検が定められている。機器点検として6か月に1回、総合点検として1年に1回を報告義務としている。
この点検にも有資格者が行うので費用をようすると共に適切に維持をしていくことを考えると毎月の自主点検等も考えられる。どちらにしろ、設置しただけの費用の他にランニングコストも増額する要素になるので、説明を行っておかなければ後々のトラブルになりかねない。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
屋内消火栓設置の緩和ポイント
屋内消火栓設置において緩和できるポイントは大きくわけて2つある。①建物の構造を準耐火、耐火構造とすることによる面積緩和。②代替消防設備を取り付けることによる緩和である。
以下に解説を記す
①建物の構造を準耐火、耐火構造とすることによる面積緩和。
消防法施行令11条2項に記される緩和である。建物の構造を準耐火構造とした場合は必要設置面積が2倍読み、耐火構造とした場合は必要設置面積が3倍読みとなる訳だが、忘れてはならないのがいずれも内装制限を要することである。
建物を設計しているとおのずと、耐火構造などを意識して書いたりするので、問題はなかったりするのだが、うっかりしていると内装制限を忘れてしまいがちになったりする。
しっかりと押さえておきたい。
②代替消防設備を取り付けることによる緩和
消防設備は屋内消火栓の他にも、スプリンクラーなど多数存在する。スプリンクラーなどの代替設備を設置していればその警戒範囲内は、屋内消火栓は不要とする規定である。
消防設備を検討するときによほど特殊な施設でなければ、設計者の意図により消防設備を選定することはないだろう。消防法の設置義務に入る対象になったから、設置をするとの考え方が一般的であろう。
この代替設備による緩和は屋内消火栓より上位基準により設置を必要とされるものばかりである。よってこの方法を積極的に使うということはなかなか考えにくいものであるかもしれない。
だが、顧客によっては、安全第一であると考え積極的に上位設備をいれたりすることも考えられる。また、用途によっては屋内消火栓よりも実情にそった消防設備も存在することも考えられる。
設計の巾を効かせる為にも、押さえておきたい視点である。
以下に代替利用が可能な消防設備を記す
①動力消防ポンプ設備
②屋外消火栓設備
③スプリンクラー設備
④水噴霧消火設備
⑤粉末消火設備
⑥ハロゲン化物消火設備
⑦不活性ガス消火設備
⑧泡消火設備
⑨パッケージ型消火設備
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
最後に
以上屋内消火栓を計画する際に押さえておくポイントをまとめてみた。おおまかなポイントを把握することは、計画の可能性を幅広くすることに繋がる。
ただし、計画する際には、自身での調査は怠らないようにしていただきたい。各所轄消防署には、東京都でいうと「東京都火災予防条例」「予防事務審査基準」というように消防法以下の取り決めをもっている、大まかには法の解釈でずれはないのだが、制限を厳しく定めているところもある。
結局は確認申請と消防同意がおりなければ着手はできないので、計画がある程度固まって段階で事前協議を忘れてはならない。消防の視点は安全及び危険をとにかく排除し、有事に適切に対処ができるような視点で話をしてくる。
設計者としては、お金を握る施主と、法を振りかざし正当に攻めてくる行政の間の板挟みであるが、適格な判断をする為にもしっかり協議をし、建物が最善となるように努めるべきであろう。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。