異種用途区画とは、建築基準法施行令第112条第12項・第13項に定める防火区画の一種である。一つの建築物に、異なる用途の部分が複数混在するような建築物を想定している。
このとき、それぞれの部分は、利用時間帯や利用者の人数、火災の発生する可能性、火災となった際の危険性(火災荷重)がそれぞれ異なる。
このような建築物で発生した火災が、異なる用途の部分に延焼した場合、おもわぬ被害が発生することが考えられる。このような被害を防ぐために、異種用途の空間どうしを区画することを目的としたものが、異種用途区画である。
異種用途とは
そもそも、異種用途とはなにか、その定義を確認しよう。まずは条文をみてみる。
第12項 建築物の一部が法第24条各号のいずれかに該当する場合においては、その部分とその他の部分とを準耐火構造とした壁又は法第2条第9号の2ロに規定する防火設備で区画しなければならない。
第13項 建築物の一部が法第27条第1項各号、第2項各号又は第3項各号のいずれかに該当する場合においては、その部分とその他の部分とを1時間準耐火基準に適合する準耐火構造とした床若しくは壁又は特定防火設備で区画しなければならない。
区画が必要となる異種用途は、条文により二種類示されている。ひとつは第12項の「法第24条の特殊建築物」、もうひとつは第13項の「法第27条(法別表)の特殊建築物」である。これらに示される用途の相互間、またはこれらの用途とその他の用途とを区画する必要がある。
なお、第12項で参照する法第24条は、「法第22条第1項の市街地の区域内にある木造建築物等である特殊建築物」の外壁等について規定したものであるが、第12項の条文では「法第24条各号のいずれか」とあるため、建築物の区域や構造については規定されていないことに注意したい。第24条各号を具体的に列記すると、以下の通りとなる。
一 学校、劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場、マーケット又は公衆浴場の用途に供するもの
二 自動車車庫の用途に供するもので、その用途に供する部分の床面積の合計が50㎡を超えるもの
三 百貨店、共同住宅、寄宿舎、病院又は倉庫の用途に供するもので、階数が2であり、かつ、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるもの
第13項については、法第27条により耐火・準耐火建築物としなければならない法別表の特殊建築物の用途が、建築物の一部に存在する場合、その部分を区画することを規定している。ここでは、第27条の各項、各号のいずれかとなっているため、法別表第1(い)欄の特殊建築物のみに限らないということに注意が必要だ。具体的には以下の建築物がある。
・劇場、映画館又は演芸場の用途に供するもので、主階が1階にないもの(法第27条第1項第4号)
・別表第2(と)項第4号に規定する危険物貯蔵場・処理場(法第27条第3項第2号)
ここで注意してほしい点として、第12項・第13項で引用している、法24条・法27条がどちらも、防火に対する対応を要求している条項であるという点である。それはすなわち、この二条にあげられた用途については、防火上の配慮が必要であると理解できる。
その観点からそれぞれの用途をみていくと、火災の危険性の高い用途、不特定多数の利用する用途、避難・消火についての困難が予想される用途などがあげられていることが理解できるだろう。建築物におけるそれらの部分を区画することが、異種用途区画の目的である。
また、もうひとつ注意が必要な点として、これらの用途とその他の部分だけでなく、これらの用途の相互の区画も原則として必要とされている点である。このことについても、ここまで解説した異種用途区画の目的を正しくつかんでいれば、容易に理解できることと思う。
日本建築行政会議は「建築物の防火避難規定の解説」において、「法別表第1(い)欄の同一枠内であっても用途が異なるときは区画を要する」としている。
異種用途区画については、他の面積区画・竪穴区画とはやや異なり、用途ごとの区画という性質から、明快な判断が難しい部分がある。それだけに、区画が必要となる用途およびその範囲の見極めが重要である。
関係条文で確認するだけでなく、その管理形態なども含めたチェックにより、区画が必要かどうか判断したい。また、行政や審査機関との解釈が相違することもあ。事前のじゅうぶんな協議が重要である。
また、それ以前に、計画段階から異種用途区画を意識することによって、複合用途の建築物であっても明快なゾーニングのプランニングが可能となることもある。
その結果、防火区画に要する投資を抑えられるだけでなく、建築物の利用の上でも合理的な設計となれば、計画じたいのコストパフォーマンスを向上させることにもつながるだろう。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
異種用途区画の注意点
異種用途区画について、計画の上で注意すべき点について、4つのポイントとして以下にまとめた。
異種用途区画はスパンドレル等が不要
他の面積区画・竪穴区画で必要となる、外壁における90cm以上の準耐火構造の壁、いわゆるスパンドレル等については、異種用途区画では必要とされていない。
条文を確認すると明らかであるが、他の防火区画が令第112条第1項~第9項に規定されているいっぽう、異種用途区画の規定は、第12項・第13項となっている。その間、第10項・第11項に規定されているのは区画と接する外壁、いわゆるスパンドレル等についての規定である。
すなわち、異種用途区画については第10項・第11項の規定が適用されないということに注意したい。つまり、異種用途区画ではスパンドレルや50cmのそで壁は不要であり、スパンドレル部分の開口部における防火設備の設置も不要となる。
このことは、既存建築物の一部を用途変更する際に、重要な意味がある。すなわち、用途変更において外壁を改修する必要がなくなるわけである。
一般的なテナントビルなどの場合、テナント部分を用途変更するケースは多いが、テナント工事で改修できるのは賃貸部分のみであり、外壁については共用部として手を加えることができないのが一般的である。それでも用途変更が可能となっているのは、実はこのためである。
もちろん用途変更に限らず、新築計画の場合でもスパンドレル等は必要ない。ただし、異種用途区画が他の面積区画・竪穴区画を兼ねている場合は、もちろんスパンドレル等が必要となるので注意したい。
共用部分の取扱い
異種用途区画においては、複数の用途部分が共有する、共用部分の取扱いが問題となることが多い。条文にも明確な規定がないが、考え方としては、「共用部を異種用途区画が必要な異種用途の一つとしてとらえるか否か」で大きく二つに分けられる。
例として「店舗・事務所・共用部」で構成された建築物で解説する。この場合、店舗部分が第13項に規定する特殊建築物に該当する。
共用部を異種用途の一つとしてとらえる場合、店舗と共用部がそれぞれ異種用途と考える。したがって、店舗と共用部との間を区画したうえで、事務所と共用部との間もまた防火区画することになる。
共用部を異種用途の一つとしない場合は、共用部をどちらかの用途に含んで区画することになる。つまりこの場合は、
・店舗用途に含んで、店舗と共用部は区画せず、共用部と事務所を区画する
・事務所用途に含んで、店舗と共用部を区画する
の二通りの区画方法が考えられる。
このように、あわせて三通りの区画が考えられるわけである。この例では単純化したため三通りであるが、とうぜん用途が増えれば区画のパターンも増える。また、いわゆる複合ビル、雑居ビルのようになれば、これに竪穴区画もあわせて必要となる場合もある。
第12項の異種用途区画では特に意識する必要はないが、第13項の異種用途区画では、竪穴区画よりも要求される区画の耐火性能が高いため、やはり区画方法を考慮する必要がある。
このような場合について、日本建築行政会議は「建築物の防火避難規定の解説」で、店舗と共同住宅の例で解説しており、共用部を共同住宅用途に含むパターンで解説している。
ただし解説文では、あくまでも「利用実態から」区画方法を決定することが「望ましい」とされている。各々の用途部分の構成・配置は計画によって千差万別であり、明解な答があるわけではない。行政や審査機関との協議が必要となる部分である。
とはいうものの、計画の段階で、より合理的な区画の計画とすることは可能である。複合用途の建築物を計画する際は、異種用途区画を意識しながら計画を進めることがのぞましい。
異種用途区画が不要となる場合
令第112条第12項・第13項の条文には緩和や免除に関する規定はない。ただし、第13項については、従属する用途で一定の条件を満足する場合、区画は不要とする判断が示されているので、以下に解説したい。
日本建築行政会議は「建築物の防火避難規定の解説」において、異種用途であっても、下記の要件に該当する場合は区画は不要とすることができるという考えを示している。
イ. 管理者が同一であること。
ロ. 利用者が一体施設として利用するものであること。
ハ. 利用時間がほぼ同一であること。
二. 自動車車庫、倉庫等以外の用途であること。
上記のような場合、「火災の危険性が同程度であり、統一のとれた管理・避難等が可能」な建築物として、区画が不要とされている。例として、「物品販売業を営む店舗の一角にある喫茶店・食堂、ホテルのレストラン等」で上記の要件に該当するものがあげられている。
とはいうものの、最後のニ.の項目以外は、管理についても、利用形態・利用時間についても一義的な判断が難しく、場合によっては解釈が相違することが予想される。行政や審査機関とのじゅうぶんな協議が必要である。
専用住宅の付属駐車場について
意外に見落としがちな異種用途区画として、専用住宅の駐車場、とくに戸建て住宅のビルトインガレージのような形態の駐車場がある。
住宅のガレージというと、直観的に、主たる住宅に従属する用途とみなしてしまうが、異種用途区画の考え方の上では、従属する用途にはならず、あくまでも個別の異種用途となる。前段で解説した、日本建築行政会議が示している従属する用途の四つの要件のうち、最後の「二. 自動車車庫、倉庫等以外の用途であること。」という項目に注意していただきたい。
この項目は火災荷重の観点から、異種用途区画の免除から除外されていると思われるが、これがたとえば、戸建て住宅のビルトインガレージなどで、乗用車を2台以上収容するガレージを計画した場合などに、区画が必要となってくる。
そのようなガレージで、少し広めに計画すると、駐車場部分の面積50㎡を超えてしまい、第12項の異種用途区画が必要となるケースがある。この場合、ガレージに直接出入りする計画にしていると、遮煙性能を有する防火設備が必要となるので注意が必要だ。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
最後に
以上、ここまで異種用途区画の基本的な考え方を解説し、設計において注意すべき4つのポイントを紹介してきた。これらの内容をまとめると、下記の表の通りとなる。
→無料プレゼント『知らないと恥を書く!建築関係者が絶対に知っておくべき法令大百科』PDF
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。