自宅の庭に小屋を造りたい、自宅の庭に屋根付きの駐車場を造りたいなど、小さい建物から、大きい建物まで敷地内に新たに必要なものができた場合には、原則その建物を建築するための増築確認申請が必要となる。
増築確認申請は、まっさらな敷地に建てる新築確認申請とは異なり、既存建物が法的に適合しているかどうかの判定等も必要となり、結構やっかいなものである。ここではしっかりと周辺に知見を整理し、実務に生かせるようにしたい。
増築とは何なのか?
建築基準法の中には、建築行為として、新築、増築、改築とあるが、いまいち整理しきれていないかもしれないので、ここで改めて整理しておく。
建築基準法第2条第13号によれば、建築とは、建築物を新築、増築、改築、又は移転することをいう。
ここで、増築という言葉が出てくるが、これ以外には、基準法の中には、定義としては出てこない。横浜市が、用語の定義として、発表しているのでそれを掲載する。
以下抜粋
○新築
建築物の建っていない敷地に建築物を新規に造ること、すでに建っている建築物を解体して新たに建築物を造ること(建て替え)を新 築といいます。
○増築
すでに建っている建築物の床面積を 増やすことをいいます。これは横に増 やす「よこ増築」と、階数を増やす「たて増築」があります。また、外観が変 わらなくても、内部の吹抜け部分に床 を貼る等、新たに床を造れば、増築となります。
増築という言葉を一般的に捉えてしまうと、建っている建物に付け足すなどの行為が、増築だと考えてしまいがちだが、定義からもわかるように、床面積を増やすことが増築にあたるので、敷地の中で、別棟を建てた場合も床面積が増える訳であるから、増築と定義されるのである。
ここではわかりやすくする為に、増築と想定されるパターンを記しておく。
①住宅に繋げる形で、部屋をもう一つ増やす。
②同じ敷地の中に、車のガレージをつくる。
③同じ敷地の中に、倉庫をつくる。
簡単にまとめると上記のパターンが増築と定義される行為である。
ここで注意したいのは、敷地という言葉が飛びかっているが、所有権がどこまで及んでいるのかという、敷地をさしている訳ではない、建築確認上で設定している敷地のことである。
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増築確認申請時に問題となることは
増築をする際に確認申請を必要とすることは、既知のことであると思うので、ここでは、具体的にどのような問題を踏んでいくのかを解説したい。
まずは、理解をしやすくしていくために、建物が増築をする際に既存の部分を既存部分、増築の部分を増築部分と定義する。
・増築部分は現行法に適合
原則どのような状況であれ、増築部分は新築等と同じ考えである。現行法に適合していることが求められる。ここはしっかり押さえておきたい。
・原則は既存建物も現行法に合致する必要あり
建築基準法は原則として着工時の法律に適合することを要求しているため、そのまま使用していてもただちに違法というわけではない。この状態は、法3条2項に基づく既存不適格建築物として扱われることになる。
法第3条第2項
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若 しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物 の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
ただ、増築等の行為を行うと、この既存不適格状態は解除され、増築部分、既存部分に現行法が適用されることになるのが原則である。
これは、増築行為に伴い、増築部分は現行法に適法でなくてもよいという考えからスタートしてしまうと、本来建築基準法が目指す建物の安全性や都市環境への配慮などの秩序が乱れるためであると考えられる。
しかし、この考えを大きく振りかざしていくと、既存建物に対して莫大な是正費用や運用障害など処々の問題が出てくるのも現実的な問題としてはある。よって建築基準法の中で、「既存の建築物に対する制限の緩和」として基準を定め、既存不適格建築物においても、増築等の行為を行いやすくする基準を定めている。
既存建築物に対する制限緩和
このタイトルの通り、緩和要件が法86条の7において定められている。
以下に、その条文が示す内容を示していく。
法86条の7
(既存の建築物に対する制限の緩和)
1項
この項で定められた法および政令の条項は、政令で定める範囲において増築等をする場合には適用しない。
2項
独立部分が2以上あるものについて増築する場合には、増築等をする独立部分以外の独立部分については適用しない。
3項
この項で定められた法および政令の条項は、増築等をする部分以外の部分については適用しない。
この86条の7で示すのは、ある一定の条件なら、既存建物に対して、既存訴求つまり現行法に従うことの要求をしないとなっている。そしてある一定の条件が、施工令137条に示されているとの流れである。
以下に、法86条の7の1項で示される内容と施工令137条に示される内容について表にまとめられているので掲載する。
以下に表の解説を記す。
表の中に基準時という言葉が存在しているが、その示す内容は、簡単に言えば、現行の法令に適合しなくなった時の事である。例えば、平成10年3月に建物が竣工したとする。平成10年6月に建築基準法の改正があったとして、竣工した建物が改正により不適合部分が出たとすると、これが基準時になる。
では表の解説をしてみたいと思う。「界壁」という行をみると、重要なのは「増築改築範囲」という列に「増築後<1.5×基準時、改築後<1/2×基準時」と書かれているかと思うが、これが何を示すのかというと、「増築部分の床面積が、基準時における既存建物の床面積の1.5倍未満なら緩和あり」ということが示されている。
このように各法の内容について示されている訳である。
ここで非常に複雑になってくるのが、構造に関する規定であるが、他でも様々解説されているところであるので、今回は割愛したい。
続いて、法86条の7の2項・3項で示される内容と施工令137条に示される内容について表にまとめられているので掲載する。
違反建築物は別物である
ここまで既存不適格建築物についての言及をしてきたが、既存不適格建築物と違反建築物は全く別のものであるので注意をしていただきたい。
既存不適格建築物とは、建築時には適法に建てられた建築物であって、その後、法令の改正や都市計画変更等によって現行法に対して不適格な部分が生じた建築物のことを言っている。
それに対して違反建築物は、故意等に手を加えてしまったが為に、建築基準法に合致しなくてなってしまったなどの状態を指し、既存不適格建築物のように不可抗力によって生じたものではないので、扱いは全く違うものである。
下記で解説をしていくが、増築確認申請を行う際に「既存不適格調書」などの書類を添えて申請する必要がある。
増築確認申請の申請フロー
増築建物については、当然適法に建てられることは当たり前として、既存建物については、現行法と照らし合わせてどうなっているのか、また既存不適格建築物を認められる状態であるのかを示す書類を添付しなければならない。
その示す方法が上記で示した「既存不適格調書」である。既存不適格調書の中には、確認済証や検査済証などがあるのか、またその情報と現地の状態がそっているのかなどを示す書類であり建築士が、違反状態ではなく、既存不適格状態であるということを示すものである。
この調書に示す情報に問題がなければ、基本的には緩和要件を加味した計画が既存建物部分には適用され、確認申請が降りるという状態となる。
しかし、違反状態が見つかった場合などは基本的には、その状態を改善するための指導をされるパターンが多い。
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計画をしていく中での注意点
増築確認申請ということを考える事と並行して頭にいれておきたいことがあるのでここで紹介する。建築物の敷地は、以下のように定められている。
施行令第1条一号
1つの建築物,または用途上不可分の関係にある2つ以上の建築物のある一団の土地をいう
この条文で示す事は、敷地とは1つの建築物が立つ土地、そして用途上不可分(主たる建物に付随すべき建物、小学校-体育館、住宅-駐輪場など)の関係のある2以上の建物が建つ土地のことである。
つまり、不可分にあたらないような建物は認められないということである。もし仮に別棟の増築等を計画する場合などは、敷地を切り分けるということも一つの手法ではある。
建築確認申請の中には申請敷地という言葉がでているが、この申請敷地は権利上の問題などまったく関係のない敷地であり、俗に勝手敷地といわれる程のものである。
例えば、住宅を新築した当時、土地もたくさんあったので、権利敷地を全て使い確認申請を出し建築をしたとする。住宅以外の部分は庭や駐車場などとして使っていた。そこにあらたに倉庫などを作ろうと考えた。このような場合、倉庫を増築扱いとして建てることも可能であるが、敷地を切り分けて新築扱いとして建てることも可能である。
もし今まで説明をしてきたように、既存住宅の適法性を説明することなどが煩わしい場合やどうしても証明できない状況などがあるときもあるかもしれない。このような中では、一つの手段としてはあるかも知れない。
しかし、注意しなくてはいけないのは、新築部分の敷地ができたことによって、既存建築物が違反状態にならないことは、同時に確認をしておかなくてはならない。
これが、後々増築等をしようとした場合に、仇になる可能性がある。建築士によってしっかり確認すべきところである。
また、新築部分に対してはあくまで新築扱いであるので、当然のごとく建築基準法の規定が全て適用になるわけであるので接道等も必要になることには変わりはない。
敷地をどのようにすれば合理的に使えるかなども視野にいれておくべきことである。
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最後に
いかがであったであろうか、増築の確認申請についてその条文の成り立ちと、申請のフローを説明してきた。
確かに法文を読むと複雑ではあるが、まずは大きくとらえることが肝心であり、必要な部分を踏まえて詳細な解読を行っていくことが肝心であろう。
まずは、施主の希望する増築対象がどのようなものであるのかを把握するところである。一体的に使いたいのであれば、既存訴求等も視野に入れた増築行為を考えなくてはならないし、また別棟でよいのであれば、別敷地にする手段も考えることができる。
どちらの手段でも可能であるということであれば、将来性の事や、コスト面、工事面の事も視野に入れた中でより理にかなった計画はどのようなものであるのかということを提案していくのがよいであろう。
建築士は専門的な職業であり、素人である施主に対して的確な情報を伝える義務がある。様々な立場に置かれている中で仕事をしている方が多いと思うが、知識を広めることによって、施主は最初にこれをしたいと話を持ちかけてきたが、実際様々なことを説明していく中で、方向性が変わっていくということもあるであろう。
施主は素人という立場でありながら、こういった建物を一つ建ててみたいけどよくわからないので専門家に相談しようということで、建築士に助言を求めるのである。そのように考えると、建築士が専門家としての知識と見解を施主に返すのが当然の礼儀であり、作法であろう。
この文章を読んで、少しでも知識の向上につなげていければと思う。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。