建築法規は建築業界で働く時に必ず抑えておかなければいけない基本的な知識の一つだ。
建ぺい率、容積率、道路斜線や接道義務など、現役で建築関係の仕事に就いている関係者であれば当たり前な知識でもこれから建築業界で働くことを考えている方や働いて間もない方であれば、かなり苦労しているケースも多いのではないだろうか。
単純に建築法規といっても非常に奥が深く、一朝一夕に全てをマスターできるものではないが、この記事では建築法規の入門として建築業界関係者や建築業界を志している方はもちろん、施主側にとっても頭にとどめておきたい大前提の基礎知識として分かり易くWEB上で簡潔にいつでも確認ができるよう解説する。
町並みを整備するための制限、用途地域について
まず、「用途地域」についての解説を行う。
建物を建てるに当たって都市計画法や建築基準法などによって、土地には様々な制限が設けられており、大前提として把握しておきたいのが「用途地域」による制限だ。
種類としては12種類ある、一字一句いつでも答えられるよう完璧に覚えておくような暗記が必要なものではないが用途地域が具体的にどういったもので、何のために決められている制限なのかはしっかりと把握していた方が良いだろう。
12種類の分類を細かく覚えてしまうと理解しにくいのでここでは「商業」「工業」「住居」の3つに分けて理解しよう。
商業
・商業地域
「主として商業その他の業務の利便を増進するため定める地域」として定義され、言葉の通り商業施設が立ち並ぶ地域において指定される。
飲食店や事務所、大型店舗などに使う高いビルやマンションが混在する場所になり高い建物が建っている、または建ちやすい場所だ。近隣商業地域との違いとしては風俗店(キャバクラやソープランド)の建築ができる所が大きく異なる。
・近隣商業地域
「近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域」として定義され、ほぼ「商業地域」と変わりないが風俗店(キャバクラやソープランド)に関しては建てる事ができない地域だ。
イメージとしては栄えたターミナル駅や大都市の中心が「商業地域」として指定される場所、そこから少し離れた商店街や比較的小さなビル、マンション、スーパーなどが混在している周辺の場所が「近隣商業地域」と考えれば分かりやすいだろう。
それ以外に小規模な工場や、量の少ないものであれば火薬、石油、ガス等の危険物を扱う施設も建てる事ができる。
工業
・工業専用地域
「工業の利便を増進するため定める地域」として定義され、言葉の通りで工業のための場所だと理解しよう。住宅はもちろん飲食店やホテルなどは建てることができないが、専用といっても自治体の支部や、神社など制限外のものもある。
細かな規定の違いはあるがイメージとしては、様々な企業の倉庫や工場などが建ち並んでいる場所を想像してもらえれば分かりやすいだろう。
・工業地域
「主として工業の利便を増進するため定める地域」として定義され、「工業専用地域」との違いとしては、住宅やお店も建てられる事が大きな違いだ。
ただ、工業地域というだけあってどんな工場でも建てることのできる場所なので工業地域として指定された場所に住宅を建てようとする時は建築関係者にとっても施主にとっても注意が必要な部分だ。
それ以外の違いとして、「工業専用地域」と比べて住宅やお店は建てられるようになるが病院や学校に関しては建てることのできない地域なので覚えておこう。
・準工業地域
「主として環境の悪化をもたらす 恐れのない工業の利便を増進するため定める地域」として定義され、危険性の高い工場や著しく環境を悪化させる恐れがあるような施設以外のサービス施設や軽工業の工場に用いられる地域。
準工業地域に関しては、工業地域として考えるよりは大まかに3つに分けた「商業・工業・住居」それぞれが満遍なく対応している地域と考えると分かりやすい。
上記した、環境と人体それぞれに対して危険な工場・施設以外の制限としてソープランドの建設を許されていないという事だけ覚えておこう。
住居
・第一種住居地域
「住居の環境を保護するため定める地域」として定義され、基本的に快適に住むための環境である事が大前提だが飲食店や店舗、事務所なども混在する地域だ。
少し大きな通りでガソリンスタンドやコンビニ、飲食店などとマンションが混在しているような通りを想像していただければ分かりやすいと思う。
第二種住宅地域との比較になるが一種の場合、パチンコ店やカラオケ、一般的な工場と危険物を扱う処理施設が建てられない。
・第二種住居地域
「主として住居の環境を保護するため定める地域」として定義され、第一種と比べると少し制限が緩やかになる。
住むための地域だという事は変わりなく、一般的な工場と危険物を扱う処理施設を建てられないのは同じだが、第一種で制限されていたパチンコ店やカラオケボックスを建てる事ができる。
・第一種中高層住居専用地域
「中高層住宅のための良好な住環境を保護するため定める地域」として定義され、建物の大きさに対してより強い制限がかかる。(500平方メートルまでの建物と300平方メートルまでの自動車駐車場)
店舗や飲食店、スーパーマーケットなど大きさが条件に合えば住居以外のものが建てられない訳ではないが、ガソリンスタンドやカラオケ、サイズの大きな飲食店や店舗など建てられないものが一気に増える。
・第ニ種中高層住居専用地域
「主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」として定義され、第一種中高層住居専用地域と比べると二種の方が少し制限が緩やかになる。
具体的には店舗や飲食店について500平方メートルという制限が外れ、第二種では1500平方メートルまでの店舗や飲食店が建てられるようになる。その他、第一種と比べて大きく違うとしてガソリンスタンドが建てられるという違いがある。
・第一種低層住居専用地域
「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」として定義され、一戸建ての住宅が建ち並ぶ地域が第一種低層住居専用地域だ。用途地域の中でも特に厳しい制限を受ける場所で、閑静な高級住宅街を想像していただければ分かりやすい。
・第ニ種低層住居専用地域
「主に低層住宅のための良好な住環境を保護するため定める地域」として定義され、他の用途地域と同じく二種になると少し制限が緩やかになる。
第一種と同様で一戸建てが建ち並ぶ閑静な住宅街としての街並みになるが、店舗や飲食店(床面積の合計が150平方メートルで2階建まで)を建てる事ができるのが大きな違いだ。
・準住居地域
「道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域」 として定義され、第二種住居地域の制限と近いが自動車修理工場などの自動車関連施設が建てられる。
ここまでで用途地域についての概要は以上だ、大きく分けた3つの分類から細かな部分まで把握していけば少なくとも全く意味が分からないという状態にはならないだろう。
次に、地域にとっての違いを踏まえて、実際に建つ建物について建築法規についての基礎的な用語を解説する。
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建物の土地に対しての大きさについて
一つの建物を建てる時、用途地域によってもそれぞれ制限が異なるが「建物を建てる土地に対して、どれくらいの大きさまでの建物が建てられるか」という違いが出てくる。
その時に必ず出てくる単語、「建ぺい率」と「容積率」についての解説をする。
建ぺい率
建ぺい率は一つの土地に対して、どれくらいの範囲を建物用のスペースとして使う事ができるのかをパーセントで表したものだ。
単純な例として、今から建てようとしている土地が100平方メートルの土地で建ぺい率が50%だとしたら建物のために使える土地の範囲は半分の50平方メートルとなる。
容積率
続いて容積率になるが、建ぺい率が土地に対して使える建物の範囲を決めるものだとしたら容積率は立体的にどれくらいのスペースを確保できるかという基準だ。
おおよそ住宅の場合、容積率は建ぺい率の約2倍である事が一般的で、例えば100平方メートルの土地で建ぺい率が50%、容積率が200%だとしたら「50平方メートルの範囲の中に100平方メートルのスペースを確保する事ができる」という事になる。
建物の高さに対しての制限について
建築物には土地に対しての範囲やスペース以外の制限として、斜線制限という空間を斜めに切り取ったような制限もある。
立地や方角から見て通風、採光などに配慮し良好な環境を保つことを目的とした制限で、簡潔に言うと「道路から見た制限」「隣の土地から見た制限」「北の方角から見た制限」の3つがある。
道路斜線制限
建物に対して道路から見て斜めに一定部分の高さまで、という制限があり前面道路の反対側の境界線を起点として1対1.25(または1.5)の勾配の斜線を引いて、その内側に建物を収める。
それ以外に緩和規定も設けられており、道路境界線から建物を遠ざけて建てた場合はその分、反対側(道路側)の境界線もズラして高い建物を建てることもできる。
隣地斜線制限
第一種及び第二種低層住居専用地域以外の用途地域が対象になる。
簡潔に、住居地域と商業・工業地域ごとに基準が違うが高さ基準(20mもしくは31m)に対して傾斜勾配(1.25もしくは2.5)の傾斜制限を受ける。
主にマンションやビルに対してかかる制限で、隣との間隔が狭く少しイビツな形になっているビルはこの制限を受けている可能性がある。
※工業・商業地域の高さ基準が31m、傾斜勾配が2.5
※住居地域の高さ基準が20m、傾斜勾配が1.25
北側斜線制限
道路斜線制限と基本的な考え方に変わりないが、言葉の通り「道路」ではなく「北側」に対しての配慮をするための制限だ。
隣地境界線から5mまたは10mの高さを起点に1対1.25の勾配の斜線を引き、その斜線の内側に建物を収める。起点の違いは用途地域によって変わり、第一種及び第二種低層住居専用地域の場合は5m、第一種及び第二種中高層住居専用地域の場合は10mとなる。(ただし日影規制の対象地域は除く。)
この制限は第一種及び第二種中高層住居専用地域と第一種及び第二種低層住居専用地域に対して適用される。
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敷地が道路に接する事を義務付ける、接道義務について
都市計画区域または準都市計画区域内で建物を建てる場合に関係するもので「接道義務」がある。
これは、敷地の問題だが、「建築基準法上の道路に敷地が2m以上接面している」ことが都市計画区域または準都市計画区域内で建物を建てる場合に関係するルールとなっており、2m以上接面していない場合は建築不可能な土地として扱われる。
地域によって変わる、防火地域と準防火地域について
都市計画法によって、建物が密集しているような都市の場合、火災によっての被害について特に厳密な制限を設けるためその地域ごとに「防火地域」と「準防火地域」という防火機能に対しての制限が定められている場合がある。
主に、都市の中心部や主要幹線道路沿いがメインになるがここではそれぞれの違いについて解説する。
防火地域
多くは、用途地域の中で言うと商業地域に指定されているもので、大規模な商業施設など建物が密集し火災などが起こると特に大惨事になりかねない地域にかかる制限だ。
この制限がある場合、建物は原則として鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造などの耐火建築物にする必要がある。
準防火地域
防火地域の外側に対して少し制限を緩め準防火地域として制限を受ける地域がある。
地階を除く階数が4階以上、または延べ面積が1500平方メートルを超える場合は耐火建築物にする必要がありますが、地階を除く階数が2階までで延べ面積が500平方メートル以下の建築物であれば木造建築物でも建てる事ができる。
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建物が受ける光についての基準、居室の採光について
建物の中へ光を取り込むための窓などについて、建築基準法で定める決まりがあり建築法規の中で「居室の採光」という。
居室に対して、建築法規で定める割合以上の採光上有効な窓面積が必要になり計算式としては「居室の床面積×定める割合(1/5〜1/10)=採光上有効な窓面積」という計算をする。
建築法規の中で定める割合については建物の種類によって比率が変わる為、注意が必要だ。
種類によっての違いは大まかに3種類に分けられ、児童や学生が使うような学校、保育所に関しては1/5の割合、住宅や宿泊施設、に関しては1/7の割合、最後に大学と病院でも病室以外の部分に関しては1/10での割合が指定される。
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最後に
今回、建築法規の中でも初心者の方や施主として建物の建築に携わる方向けに基本的な部分の解説をした。
ここまで解説した内容はあくまで入門の部分として、特に建築関係の仕事について間もない方や、建築を依頼する施主の方の助けになれば幸いだ。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。