天空率は、平成15年1月1日より施行された改正建築基準法内において追加された制度で、建基法第56条に新たに第7項として設けられた。
従来の斜線勾配等による仕様規定から、”天空率”という新たな指標を用いて高さ制限の緩和が可能となる制度(性能規定)の併用が可能となった。
従来の斜線制限は高さ制限を満たす為に、斜めカットと言われるような建物形状をつくり出した。これは居住性やデザイン性を向上させるものではなく、単に法規が産み出した形状であり、街並み全体としても評価される形態ではなかった。そしてより感覚的な実情に近い概念として産まれたのが天空率である。
ここでは、天空率がどのようなものであるかの概要を押さえると共に、緩和の勘どころを押さえて行きたい。
天空率とは何であるのか
まず、天空率とはどこに規定されどのようなものであるのかを押さえたい。
法的根拠
法56条において、道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限について規定されているが、法56条7項において、それらの規定を緩和する天空率について示されている。
法56条7項
次の各号のいずれかに掲げる規定によりその高さが制限された場合にそれぞれ当該各号に定める位置において確保される採光、通風等と同程度以上の採光、通風等が当該位置において確保されるものとして政令で定める基準に適合する建築物については、それぞれ当該各号に掲げる規定は、適用しない。一 第一項第一号、第二項から第四項まで及び前項(同号の規定の適用の緩和に係る部分に限る。前面道路の反対側の境界線上の政令で定める位置二 第一項第二号、第五項及び前項(同号の規定の適用の緩和に係る部分に限る。)隣地境界線からの水平距離が、第一項第二号イ又はニに定める数値が一・二五とされている建築物にあっては十六メートル、第一項第二号イからニまでに定める数値が二・五とされている建築物にあっては十二・四メートルだけ外側の線上の政令で定める位置三 第一項第三号、第五項及び前項(同号の規定の適用の緩和に係る部分に限る。)隣地境界線から真北方向への水平距離が、第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内の建築物にあっては四メートル、第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域内の建築物にあっては八メートルだけ外側の線上の政令で定める位置
この56条7項では、斜線制限により満たされる、採光等の環境が天空率によって確保されている場合は、斜線制限は適用しないとしている。
1号では、道路斜線について。2号では、隣地斜線について。3号では、北側斜線について規定している。
天空率とは何なのか?
法56条7項では、通風、採光がどの程度確保されたか否かを判断する基準に天空率の概念を取り入れている。実際にその位置において歩行者が受ける実感を判断する考えである。具体的には、道路の場合だと、前面道路の反対側に半球を設置したとして、その半球に建物の影が多く写る際に、圧迫感があるとして、通風、採光も阻害されていると判断する。
天空率は施工令で下記のように定められる
施工令135条の5
この章において「天空率」とは、次の式によって計算した数値をいう。Rs=(As-Ab)÷As この式において、Rs、As及びAbは、それぞれ次の数値を表すものとする。Rs 天空率As 地上のある位置を中心としてその水平面上に想定する半球(以下この章において「想定半球」という。)の水平投影面積 Ab 建築物及びその敷地の地盤をAsの想定半球と同一の想定半球に投影した投影面の水平投影面積
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何が緩和できるのか
法56条7項において、斜線制限が適用されないことについてわかったと思うが、何が適用されないのかをしっかり整理しておきたい。
・緩和されるもの
道路斜線・隣地斜線・北側斜線
・緩和されないもの
高度斜線・日影
東京を例にとると、高度斜線は第一種・第二種・第三種と分類されており、一番厳しい斜線規制であろう、セットバックなどの緩和規定もなく、勾配も厳しいことから頭を悩ませるところであるが、天空率を使うことでも緩和はできないので、正当に従う他ないと考えておくしかない。
日影規制についても同様であるが、日影規制の場合は建物階数や高さ等によって適用されるか否かの判断が下されるので、低層の建物であればそれを超えないように計画するのも回避できるひとつのポイントである。
ではなぜ、高度斜線及び日影規制については緩和されないのか考えてみたい。
高度斜線という表現をいままで用いてきたが、「高度地区」という表現の方がふさわしいかもしれない。度地区は地方自治体ごとの都市計画によって定められるものである。
都市計画が目指すものは都市における調和等であるので地域にあった高さに対する概念が存在する、建築基準法が定める斜線制限の考え方より広義に捉えているといった方がふさわしいだろうか、どちらにしろ天空率は建築基準法によって定められているものであるので、都市計画で定める高度地区までは緩和の範囲が及ばないと考えられるであろう。
続いて、日影規制についてであるが、これについては、斜線制限や天空率が空地を作りだすことによる採光や通風を規定しているものに対し、日影は敷地に落とす影を規定しているので全く概念が異なるものであるので、天空率の緩和は適用されない。
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緩和によるメリットとは
天空率は斜線制限と何が違うかと考えた際に、いわゆる敷地内に空地をつくりだすことで、余裕があるとみなされ結果的に斜線制限等を緩和できるとするものである。
例えば、斜線制限がどのようにかかるかと考えて見ると、道路斜線の場合はその敷地に接する道路の端から端までを道路斜線制限の勾配にそって立ち上がるのである。空地はどこに作るかというと、その道路からセットバックするようにつくるか、左右両端に空地をつくるか、もしくは頂部を細まってつくるかなどの手法が存在する。
天空率における、天空図の特性を考えて見ると、左右方向に空きをつくることが1番有益になる可能性が高いことがわかる。
つまり、左右を空けることで、上部に伸ばすことができるのである。
例えば、沿道型の店舗などであれば、道路に沿って綺麗に立ち上げたい場合などは、有益である。しかし、左右を削ることによる収益性の低下などの負の要因も発生する。
敷地に空地等が存在する場合に、建物自体のプロポーションを整えたいなどという場合には、有益であろう。又、斜線制限によって削られていく勾配屋根などは、一般的には角度から考えると傾斜柱になり、構造的な負担が増えることや施工性も難易度が増すことになり、天空率によりスッキリとした構造にすることでメリットが生まれる。
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天空率算定の留意事項
天空率の具体的な算定方法については、周知のものとしてここでは、天空率算定の留意事項についてまとめていきたい。
測定点よりも高い地盤の扱い
前面道路と建築物の敷地の地盤面に高低差がある場合、建築物の地盤を含めて天空率の算定比較を行う。
高さ制限適合建築物の考え方
①高さ制限適合建築物は、道路、隣地、北側の各斜線制限についてそれぞれ独立して制限されたものである。つまり、各斜線制限のいづれか一つに天空率による緩和を適用し、他は従来の制度を適用することができる。
②2以上の方向から高さが制限される場合は、各方向について高さ制限適合建築物を想定しなければならない。
天空率の算定を高さ制限が適用される範囲内に限定すること
道路斜線については、前面道路の反対側の境界線からの水平距離は、法別表第3(は)欄に掲げる距離(適用距離)以下の範囲内において適用されることとされているので、天空率を算定するのもこの範囲である。
階段室等、防火壁等
階段室等、防火壁等は高さ制限適合建築物については除外されるが、天空率の算定はこれを含めて行う。
建築物の後退距離
当該建築物は高さ制限適合建築物の後退した距離以上後退したものとする
建築物の敷地が制限勾配が異なる地域にわたる場合
斜線勾配が異なる2の地域にわたる場合は、区域ごとの建築物の部分を分けて、天空率を算定する。住居系用途地域(低層住居専用地域を除く)の場合に前面道路が12m以上である場合には前面道路の幅員の1.25倍を超える区域においては、制限勾配を1.25から1.5に緩和することになっている。この場合も、制限勾配が異なる区域ごとに建築物の部分にわけて天空率の算定を行う。
2以上の前面道路がある場合
2以上の前面道路がある場合の道路斜線は、施行令132-1の134-2の規定により敷地が区分されて前面道路の幅員が異なることになるため、天空率の算定もこれらの部分ごとに行う。
○計画建築物が周囲の地面と接する位置の高低差が3mを超える場合
計画建築物が周囲の地面と接する位置の高低差が3mを超える場合は、接する位置の高低差が3m以内となるよう敷地を区分するので、天空率の算定もこの区域ごとに行う。
上記内容は、全国共通的な解釈として差しさわりないが、各行政機関により基準を定めているところもあるので紹介しておきたい。
<横浜市の場合>
・適合建物において、 建ぺい率制限、容積率制限、絶対高さ制限など他の形態規制は考慮しない。
・計画建物において測定点より高い敷地地盤、擁壁、門、塀等は、天空率算定の対象。ただし、
開放性のあるフェンス等は対象外
・計画建物において、階段室等の屋上部分は、その部分の水平投影面積が建築面積の1/8 以下の面積で、かつ高さが12m以下であっても、天空率算定の対象
・計画建物において棟飾等の屋上突出物は、天空率算定の対象
・計画建物において、開放性の大きい屋上手すり、看板、広告塔は、対象外
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最後に
いかがであっただろうか、天空率は確かに斜線制限を緩和できるものであるが、緩和をする代わりに代償もある可能性があることを忘れてはならない。天空率は斜線制限の緩和として捉えてしまいがちだが、解説で説明したとおり必ずしも、緩和とは言えるものではないだろう。結果としてどちらを選ぶかは設計者の判断することによることとなるが、互いの特性を掴んでおくかで、施主等に対しての説明もしやすくなることは間違いない。
今回の計画建物に対しては、天空率を使うことでこのような形状をつくりだせるなどの説明ができたらベターであろう。
現在ではコンピュータが普及しているので、天空率の計算もそこまでむすがしいものではない。建物を計画する際に、特に民間施設などであれば、どれだけの収益スペースを産み出せるかが鍵になってくる。階数を上階に伸ばし、床面積は容積率いっぱいまで設定する。この検討をしていく際に、斜線制限や天空率を駆使し、最適な案を考えていかなくてはならない。
天空率は斜線緩和の為にあるのではなく、より良い案を出す為の設計手法の一つとも考えられるだろう。
一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。