建築基準法の形態規制の中で、配置に関わる斜線制限として、道路斜線があるが、意外とクリアできない状況においこまれたりするものだ。
道路斜線制限は、隣地斜線制限や北側斜線制限に比べて用途に関わらず制限があるものであり、避けて通ることができない斜線制限の種別になるであろう。
また斜線の取り方によっては、大きな形態変更を余儀なくされる場合もある。ここでは、改めて道路斜線の原則を理解していきたい。
法的根拠
道路斜線制限は建築基準法56条に示されている。道路斜線制限に関係する部分のみ本文を掲載する。
<法56条1項1号>
別表第三(い)欄及び(ろ)欄に掲げる地域、地区又は区域及び容積率の限度の区分に応じ、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が同表(は)欄に掲げる距離以下の範囲内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線までの水平距離に、同表(に)欄に掲げる数値を乗じて得たもの
(中略)
2.前面道路の境界線から後退した建築物に対する前項第一号の規定の適用については、同号中「前面道路の反対側の境界線」とあるのは、「前面道路の反対側の境界線から当該建築物の後退距離(当該建築物(地盤面下の部分その他政令で定める部分を除く。)から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものをいう。)に相当する距離だけ外側の線」とする。
3.第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域又は準住居地域内における前面道路の幅員が十二メートル以上である建築物に対する別表第三の規定の適用については、同表(に)欄中「一・二五」とあるのは、「一・二五(前面道路の反対側の境界線からの水平距離が前面道路の幅員に一・二五を乗じて得たもの以上の区域内においては、一・五)」とする。
4.前項に規定する建築物で前面道路の境界線から後退したものに対する同項の規定の適用については、同項中「前面道路の反対側の境界線」とあるのは「前面道路の反対側の境界線から当該建築物の後退距離(当該建築物(地盤面下の部分その他政令で定める部分を除く。)から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものをいう。以下この表において同じ。)に相当する距離だけ外側の線」と、「前面道路の幅員に」とあるのは「、前面道路の幅員に、当該建築物の後退距離に二を乗じて得たものを加えたものに」とすること。
(後略)
この法56条では以下の内容が定められている。
・1項1号
前面道路から発生する斜線制限以下に建物の高さを抑えること
・2項
建物セットバックによる緩和
・3項
示された用途地域内において、幅員12メートル以上幅員がある道路の場合、ある距離を越えると斜線勾配が1.5になる旨
・4項
3項で示されている、前面道路に関する解釈
建築を実務とされている方では、一度は触れた事がある条文であるはずであるが、改めて法文を読むことは非常に重要なことであろう。
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検討の流れ
道路斜線制限を計画に盛り込むことは非常に簡単であり、原則的には、道路幅員に斜線勾配をかけて、その高さ以下に建物がくるようにすれば良いだけである。
建物がセットバックしていれば、幅員にそのセットバック分が足されるし、2方向道路であれば、広い幅員の2倍まで緩和されると覚えておけばよいであろう。
一応教科書的にはなるが、検討の流れを以下に記す
①検討するポイントを定める
②検討する延長線上の道路幅員を定める
③道路境界から建物までの最小距離を定める
④敷地容積率を定め「別表第三(に)欄」より,「勾配」と「適用距離」を求める
⑤検討ポイントが「道路の反対側境界線」から「適用距離」内にあることを確認する
⑥セットバック緩和を加味した「道路の反対側の境界線」から「求めたい地点」までの水平距離に「勾配」を掛をけ算して,高さの限度を求める。
上記の検討方法は、ある程度建物形状が決められており、そこに配置した場合において道路斜線上問題がないかどうかを検討する流れであるが、斜線勾配を断面として表現すれば、どの位置にどの高さまでを建てることができるのかを一目でわかるようになるので、これを目ぼしにして、建物形状を決めていく方法もある。
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緩和のポイント
道路斜線には、いくつの緩和措置が規定されている。計画の中ではなくてはならないポイントであるのでしっかりとマスターしておきたい。
建物後退によるセットバック
建物が後退していることにより、斜線勾配にかける道路幅員に後退分を足してよいという規定である。原則、建物後退によるセットバック緩和を用いない場合は、ある建物の高さは下記の式であらわされる。
建物制限高さ=(道路幅員+道路境界から建物までの距離)×1.25もしくは1.5
セットバック緩和を用いる場合は、
建物制限高さ=(建物までの最小距離+道路幅員+道路境界から建物までの距離)×1.25もしくは1.5
ここで注意しなくてはいけないのは、緩和距離は建物までの最小距離であるということである。
道路斜線制限を検討する場所において、建物がバックしていたとしても、その距離は緩和距離には用いることができない。あくまで、その道路に面する建物の最小距離である。
このように考えると道路境界に面してつくられた、建物の出の部分があだになり高さ制限に干渉してしまうなどのことも考えられるので注意されたい。
次に疑問に思うのは、建物のセットバック距離というがどのような条件ならカウントされるのだろうか。カウントされない部分が示されているので、それ以外はカウントされるとして差し障りないであろう。
セットバック距離の算定において建物とみなされない部分
施行令第130条の3より、セットバック時において建物として見なされず緩和される部分が存在する。
物置その他これに類する用途に供する建築物の部分で下記条件に合致するもの。
・軒の高さが2.3mかつ床面積の合計が5㎡以内。
・前面道路からの後退距離が1m以上。
・前面道路に接する部分の長さに対して1/5以下。
ポーチその他これに類する建築物の部分で下記条件に合致するもの。
・前面道路の中心線からの高さが5m以下。
・前面道路からの後退距離が1m以上。
・前面道路に接する部分の長さに対して1/5以下。
道路に沿って設けられる門又は塀
・高さ2m以下
・高さ1.2m以上の場合は1.2m以上の部分が網状その他これに類する形状
歩廊、渡り廊下等で特定行政庁がその地域の気候若しくは風土の特殊性を考慮して規則で定めたもの。
建築物の部分で高さが1.2m以下のもの
この中で着目しておきたいのは、ポーチについてである。計画の中で、ポーチを設定するかなどは、当然のごとくあるわけだが、簡単に言うと2階に部屋などを設定しないポーチなどであれば、距離算定には入らず、高さ制限を幾分稼ぐことが可能である。シビアに計画している際などは、頭の片隅におき、平面プランを組み立てていきたいものである。
2方向道路による緩和
建物敷地が2方の道路に接する場合に、ある一定距離まで、狭い部分の道路斜線制限検討において、幅員が広い部分として検討をしてもよいとの規定である。
以下説明を加える。建築敷地があり、道路A(広い)と道路B(狭い)が敷地に接しているものとする、道路Bにおける道路斜線制限検討において、「2Aかつ35m以内」までの部分なら、道路Aの幅員を斜線制限検討に用いてよいものとなっている。
・「2Aかつ35m以内」の起点は、どこからなのか?
原則的には、いわゆる道路が東西、南北などで交わる角地状態の場合は、道路が交わる道路境界点、もしくは道路敷地の前後に接している場合などは、道路と敷地境界が交わる点となる。
・道路Aの幅員が一定でない場合。
道路幅員には道路台帳等に記載されている、認定幅員などがあるが、道路斜線検討において使用する幅員は認定幅員などにはよらず、検討点の実幅員で考えるのが原則である。
道路幅員が敷地に接している範囲において変化する場合があるが、道路斜線の検討においては、検討点の幅員を使用することは変わりない。では、表題に示したAについてはどこで定義されるのか、この見解についてはまとまっていないというのが答えであり、各建築主事の判断によるところである。
計画にあたっては、主事の判断を仰いでいる時間がない時は、最小部分でとることが安全的な解釈となるであろう。
高低差緩和
道路と敷地において高低差がある場合において緩和が適用される。
「地盤面」が「道路面」より1m以上高い場合,その高低 差から1mを引いた値の1/2だけ道路面が高い位置にあるものとして道路斜線の算定ができる。
これは、道路斜線による高さ算定の起点が道路中心高さにあることを思い出してもらいたい。仮にこの緩和規定が存在しないとき、建物高さはかなり制限される事になり、不利な状況になる。これに対する緩和措置としてこの規定がつくられている。
法文を解釈する時に表面の条文だけをとらえるのではなく、この条文が規制しようとしていることは何なのだろうかとの視点で望めると、計画を考えていく際に融通がきくのではないだろうか。
水面緩和
前面道路の反対側に「公園,広場,水面等がある場合に, 公園等の反対側の境界線を道路の反対側の境界線とみなしてよい.」というものである。
道路斜線制限の本来の目的は、道路を挟んで向かい合う建築物の良好な環境の確保や、道路上の日照、通風、採光などを確保するためである。
この水面緩和がある理由は、公園や広場、水面などが道路等の環境が良好に確保されることが担保されるからと考えているからである。
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計画時の注意点
ここまでで、道路斜線制限の緩和概要について話してきたが、計画を進める上での勘所を紹介したい。
・道路の調査は役所にしっかり確認
建築物は基準法の道路に接道していなければ、建てられない訳であるが、道路斜線においても同じようなことがおこりかねないので要注意である。一見すると、一項一号道路に見えても、2項道路だったなんてこともありうる。
2項道路だと、斜線制限は厳しくなるし、最悪セットバックするなんてこともありうる。この敷地に問題はないかしっかりと見極める必要がある。その為の絶対的な調査方法はやはり所轄の役所に確認することが確実である。
・2道路緩和には、適用できない部分がある
2道路緩和の原則は「幅員の最大な前面道路の境界線からの水平距離がその前面道路の幅員の2倍以内で、かつ、35m以内の区域及びその他の前面道路の中心線からの水平距離が10mをこえる区域については、すべての前面道路が幅員の最大な前面道路と同じ幅員を有するものとみなす。」
10mを超えない部分については小さい道路幅員の斜線制限が適用される、つまり左記領域に入る部分は低い建物形状になる傾向があり、この部分を作らないようにすることが求められる。
2方向の道路幅員が小さい場合に敷地の奥行きが長い場合など緩和の恩恵を受けられない部分が多く存在することになり計画上不利になることがある。
・2項道路の場合3階建ては難しい
2項道路とは幅員、4m未満の現に存在する道を表し基準法上では道路中心から2mの道路後退を必要とするので道路斜線における幅員は4mとなる。
幅員4mの場合の道路の端の建物高さが勾配が1.25の場合は約5メートル、勾配1.5の場合は6mとなる。3階建ての建物は8mほどはあるのである程度の後退距離がなければ立てる事は難しい。
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最後に
いかがであっただろうか。ここまで、道路斜線制限の基本的事項と緩和について紹介をしてきた。この基本的事項を基にした計画になるわけだが、セットバックの解釈などは自治体によっては一律になっていないところもあるので、シビアな計画を要求されないのであれば安全側の計画に立ち行っていくことが良いと考える。
また道路車線をクリアできない時は、天空率等の使用によって緩和することも可能であるので周囲の知見を身に付けておきたいものである。
初期の計画段階では、詳細な検討よりも概ねという考えが必要になってくる。だがこれらの緩和条件を使いこなせるかどうかで計画の結果は変わってくる。今回の道路斜線に係らず幅広い知見を身につけていけたらと思う。
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一級建築士
不動産コンサルティングマスター
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。