住宅会社の生き残り戦略とホームインスペクション

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すべての産業は需要と供給の関係において成立している。住宅産業においては、戦後常に膨大な潜在需要が存在し続けてきた。その間、政府も一貫して持家政策を推進すると共に、減税・補助・融資制度など住宅需要の実現を支援して、経済成長を維持してきた。住宅産業ほど直接的な国の政策的支援を背景にして成長してきた産業は他にないだろう。

しかし新築偏重の政策を長い間続けてきた結果、空き家問題を引き起こし、今後人口減少、少子高齢化の進行、単身世帯などの少人数世帯の増加が確実視される中では、状況は激変するはずだ。

新築住宅の着工件数が確実に減少していけば、大手ハウスメーカーでも、これまでの様に商品系列を拡大して施工体制を整える一方で、営業マンを採用してモデルハウスを増やして集客すれば良いという訳にはいかなくなるに違いない。

一方、中小の地場工務店はこれまで顧客を地縁、血縁で獲得してきた。しかし、これらの方法での顧客獲得は先細りしていくしかない時代にすでに突入したといえる。

今後住宅産業は、限られた需要を奪い合うサバイバル競争時代となるだろう。これまでの延長線上にはもはや繁栄はない時代へと突入したのだ。

 

これからの住宅会社の課題

では住宅会社がサバイバル競争時代を勝ち残っていくためには、何が必要なのだろうか。

今や我が国では、既存住宅の戸数が世帯数を大きく上回っている。また、顧客の多くが将来に不安を持っていて、10年先、20年先の地位や所得は予測できず、親達の多くは既に持ち家に住んでいる。

必ずしも経済的な大きな負担を抱えて家を新築したり、新築住宅を購入したりする必要はもはやないのだ。この様な状況では、新築以外の選択肢を持たずに、従来通り当たり前の様に新築や建て替えばかりを奨める住宅会社は、競争に勝てなくなるばかりでなく、消費者からソッポを向かれてしまうだろう。

新築や建て替えだけでなく、親との同居も含めたリフォームや買い替え、中古物件の購入など幅広い選択肢の中から、ひとりひとりの顧客に合わせたベストな提案ができる住宅会社が求められる様になるだろう。

それを可能にするのが、顧客へのヒアリング能力や情報収集能力、新築だけでなく住み替えやリフォームなど様々な提案が可能な総合力だ。これからの住宅会社は、新築顧客だけ狙っていたのでは未来はない。

よって、住まいについての相談事を抱えている全ての顧客をターゲットにしなければならない。そして新築以外の方法でも顧客の不安を取り除き、安心してリフォームや中古住宅の購入を決断してもらうのに欠かせないのがホームインスペクションなのだ。

 

ホームインスペクションの役割

ホームインスペクションは何も新しい手法ではない。今までも住宅をリフォームする前には現地調査を行い、建物の劣化状況や不具合、構造上の問題などを見極めた上で、リフォームの可否を判断し、リフォーム計画や見積に反映させていた。リフォーム会社が行ってきたこれらのやり方と、ホームインスペクションは基本的に何ら変わりないものだ。

しかし、新築工事しか行って来なかった住宅会社やパワービルダー、設計事務所などでは、既存の建物の調査・診断や改修計画の立案などはどちらかと言えば苦手な分野だ。建物の再生などほとんど経験がないのだから当然だ。

一方、中小の住宅会社や町のリフォーム会社が最も得意とする分野ではないだろうか。今後中小の住宅会社が生き残っていくためには、ここを磨いていくのが近道だろう。

ターゲットとする顧客の経済的条件、年齢層、家族構成、価値観、ライフスタイルなどを考慮し、ホームインスペクションを切り口に様々な選択肢からベストと思える提案を行う様にするのだ。おそらくおのずと、建て替えや新築住宅の購入という選択は少なくなるはずだ。

「あそこの会社に相談に行くと、何でもかんでも新築を奨められる」よりも「あそこの会社は今の住宅を詳しく調査した上でリフォームした方が良いとなれば、リフォームでも快適に暮らせるプランを提案してくれる」方が良いのは明らかだろう。

 

生き残るために住宅会社がやるべき事

競争が激しくなると、多くの住宅会社が価格勝負に巻き込まれて苦戦している。

本格的な価格競争になれば、部資材の流通システムや販売システムの革新が可能で、大量発注、大量生産の大手ハウスメーカーに対して、中堅のハウスメーカーは値引きする以外に勝ち目はない。

また、もともと住宅は価格が曖昧な商品で、A社とB社の住宅は見た目の価格はどちらが安いのかは比較できても、どちらがよりコストパフォーマンスが高いのかは一般の人には全くわからない。住宅の価格を坪単価のみで比較するのはナンセンスなのだ。

わかりにくいのは価格だけではない。性能で比較しようとしても、耐久性能をはじめとする様々な性能の評価基準は、顧客に理解しやすいようになっていない事が多い。

差別化とは、単に他社でやっていない事や、他社で真似できない事を指すのではない。他でやっていなくて真似ができない事でも、顧客がそれを求めていなくては何の意味もない。

やるべき目標は、価格を下げる事ではなく、顧客の求める価値で競合他社を上回る事だろう。住宅に求める顧客の価値は、人によって異なるものだ。

人生の中の住宅の位置付けや、ライフスタイル、家族関係や親子関係などによってひとりひとり異なるニーズの中から、特定の顧客のニーズにスポットを当てて、他社よりも優れた提案をしなければ競争には勝てない。

だだし、価値で上回っても、それを顧客に知らせ、理解してもらった上で納得してもらわなければならないのがポイントだ。よって、納得してもらう方法を考えるのが大切なのだ。

例えばリフォームで提案するなら、建て替えなくても十分な機能性や快適性が得られる事を証明しなければならない。そのための手段として、ホームインスペクションは重要な武器になるはずだ。

また、ホームインスペクションの結果、リフォームするよりも建て替えた方が良いとなれば、それはそれで説得力が増すだろう。

これからの中堅以下の住宅会社にとって、ホームインスペクションを切り口として、顧客の中に飛び込んでいく事は非常に有効な手法だと思う。

 

まとめ

住宅会社の営業プロセスの中にホームインスペクションを取り入れる際に注意したいのが、第三者性、中立性の確保だ。これは非常に大切な事であり、住宅業界全体の信用にもかかわる問題だと思う。

自社でのリフォーム受注や不動産売買を有利に運ぶための診断結果の偽装やねつ造などは、決してあってはならない事だ。万一顧客にこの様な疑念が生まれたら、顧客はたちまち離れていってしまうだろう。

これまで、ホームインスペクションを依頼する際には、リフォーム業や不動産業を営んでいない専門の会社に依頼するべきとされてきた。あくまで第三者性が大切で、後ろ(耐震補強やリフォーム、中古住宅の購入など)までセットになっていないのが条件だった。

しかし顧客の立場からは、同じ窓口で全て解決できるに越したことはないはずだ。

本来、住宅会社や不動産会社と利害関係を持たない住宅診断専門会社が行うべきホームインスペクションを住宅会社自らがおこなう上では、高いモラルを持つ事が必要だ。

また兼業だからといって、およそプロの診断とは思えない様な見落としだらけのインスペクションなど、診断のレベルを低下させる様な事も絶対に避けなければならない。これからの住宅会社にとって、インスペクターの育成も重要な課題となるだろう。

結局のところは、豊かな知識と経験を持ち、顧客満足を喜びとする社員、向上心と達成意欲が旺盛な社員を持つ住宅会社以外生き残るのが難しくなるはずだ。

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